【怪奇小説】空手対幽霊〜幽霊 対 空手〜

〜幽霊 対 空手〜
鉄玉郎は振り返り、女ミイラのいた場所を見た。
床の上に文字が書かれていた。
ウェルカム
断定はできないが、女ミイラの粉が集まって、文字を構成しているようだった。ダニの集合体ではないようだったので、鉄玉郎は安心した。それならば、どんなに鼻水が出たことか……。
恐怖のメッセージである。やはり、女子大生だから頭が悪くて、英語の綴りがわからなかったのであろう——カタカナで書かれていた。文字は無気味に蠕動していた。
「どういたしまして」
鉄玉郎は礼儀正しくお辞儀をした。
これから全力で、お互いを殺しあうのだが、その前に相手に礼を尽くすのは、武道家としては当然のことである。だが、それは、乾燥した女子大生が期待していたリアクションとは違ったらしく、人粉は不愉快そうに揺れた。
粉が動いてるのを見て、愉快なのか、不愉快なのか、どうしてわかるのだ?
と言われそうだが、確かにそのように、鉄玉郎には感じられたのである。
文字の書かれている場所のあたりで、黒い霧のようなものが沸き上がった。文字を構成していた粉よりも細かい、微粉末に近いミイラの粉であろうか。
霧は鉄玉郎に襲いかかった。
「ぶはあッ!」
人間の粉末に襲いかかられたことのない鉄玉郎は、素頓狂な悲鳴を上げた。驚いたのである。
この状態を、なんに例えればいいのか……。
北極圏では夏の初めに、ブヨが大発生して霧のように人間に襲いかかり刺すという……それみたいな状況か。
なおさら、わかりにくいな。
「口の中がざらざらするッ!」
鉄玉郎は、不愉快極まりない状態にあった。
乾いた人間の粉に鉄玉郎の肌は覆われた。口、耳、鼻……開いている穴という穴すべてに、粉は容赦なく侵入してきた。目が痛くてたまらないが、鉄玉郎は眉間にしわを寄せて、辛抱した。
身体のまわりを黒い霧が、渦を巻いて取り囲む。
特に気持ち悪いのが、耳の中に入ってきた人粉だった。なにしろ、入ってきた人の粉が、外耳道で、ぐるんぐるん暴れ回るのである。
鼓膜に暴れ太鼓のようにぶち当たった粉が、頭の中に大音響を引き起こした。蝸牛神経節が、加熱して火を噴きそうになった。もしそうなったら、人体自然発火現象である。大竜巻の真っ只中に、走っている鉄道の線路に、耳を当てているようなものである。
さらに、目がこれまた痛かった。
実に痛くてたまらん。
目の中に小虫が入った体験は、誰にでもあろう。あれは、痛いものですね。しかしながら、この悪魔の粉は眼球の上をスケートリンクと勘違いしているのか、すいすい動き回るのである。しかも、その行動には限りない悪意がこめられており、スケートリンクが痛くなるように、わざと乱暴に滑るのであるッ!
ああッ!
なんという地獄であろかッ!
私の目の上で、スケートをしないでくださいッ!
人間が苦しめば苦しむほど、その微粉末は嬉々として人体を攻撃した。エイズウイルスだって、こうは悪質ではなかろう。
鉄玉郎は肌が痛痒くてたまらなかった。小さな口を持った微粉末が、こつこつと微生物特有の執拗さで、自分の皮膚を食いちぎっている……。そんな妄想のような顕微鏡的拡大図が、頭の中に浮かんだ。
妄想の中の微生物は、鋭く細かい牙を無数に持ち、歯の間から血を滴らせて笑っていた。
それだけなら、まだましだったのであるッ!
ああッ!
まだ、耐えられたともッ!
人粉は、服の隙間から鉄玉郎の恥ずかしい性器の尿道や、糞便の滓のついた汚らしい肛門にも、果敢に攻撃を続けていたのである。臭くないのか。
しかも、中に入ってきたッ!
恐ろしいッ!
この世にこれほど、地獄のようなことがあろうかッ?
普通の人間ならば、恐怖の耐久性の限度を超えて、とっくに頭があっち側の世界に、行っているところである……鉄玉郎の頭が、最初から向こう側に行っていて良かったッ!
ばりばりばりばりッ!
これが、なんの音かというと、耳の中に入りこんだミイラ粉が、鼓膜を食い破ろうとしている音だ。
実にいやな音であるッ!
こんな音は聞かないまま、一生を終えたかったッ!
と鉄玉郎は心の底から思った。
鼓膜が齧られる音が、大地震のように大音響で聞こえる。世界破滅の前触れのようである。もうすぐ、なにも聞こえなくなり、世界は無に還るだろう……。
良いことだ。
こんな最悪な状況の下、鉄玉郎は少しも慌てていなかった。
むしろ、危機に落ち入るほど、その心は冷静になった。
もともと、人間の心を持っていないのだから、さもあらんである。
「おすッ!」
落ち着いて深呼吸する鉄玉郎——もちろん、さらに大量のミイラ微粉末が、呼吸器官になだれこみ、肺を齧りはじめた。焼き肉で言うなら、プップギである。
俺の珍味はうまいか。
鉄玉郎は、空手の基本である前屈立ちで構えた。
ぶんッ!
鉄玉郎は見えない敵に、突きを入れた。廃屋の湿った空気を、鋭く切り裂く。
もちろん、効き目はない。空手とは人間相手に使うべきものであって、幽霊に使うものではない。相手は、人間界の物質ではないのだから、通用しなくて当たり前である。
元女子大生だった悪意の生命体は呆れた。
愚かしいッ!
筋肉崇拝の男根主義者のやりそうなことだわッ!
自分の腕力が、今回の相手には通用しないとわかり、やけくそになってるのねッ!
ああ、愚かしいッ!
愚かしすぎるッ!
幽霊を殴れるものなら、殴ってみるがいいわッ!
そんなバカな話、聞いたことがないッ!
おほほほほッ!
あははははッ!
そのアインシュタインの法則にもニュートンの法則にも支配されない、無敵の生命体は鉄玉郎を心の底から軽蔑した。
こんなに頭が悪いということは、もしかして……高卒なんじゃないかしらッ!
きゃは!
超信じられないわッ!
へたすると、中卒だったりしてッ!
ひああッ!
それって人間?
キモッ!
キモッ!
超気持ち悪いわッ!
中卒なんて、最初から人生終わってるじゃないッ!
生きる意味なし、価値なしッ!
本来なら、女子大生様とは、口なんてきいては、いけない身分なのよッ!
わかってるのかしら、この中卒ッ!
石になるわよッ?
女子大生様の霊は、もっと愚弄したくなり、空気中の自分の分子を集めた。そして、長さ三十センチくらいの笑った毒々しい女子大生の唇を、空中に出現させた。
「プッ!」
吹き出す女子大生の唇。
いかなる物理的法則を利用したのかは知らないが、嘲笑してることは確かなようだ。自分の分子で、空気を取り囲み、圧縮し、狭い唇の間から噴出させて、音を出したのだろうか……。
ぶんッ!
鉄玉郎は、小バカに笑う唇に殴りかかった。もちろん、拳は虚しく宙を舞った。
我慢しきれず女子大生の巨大な唇は、爆笑した。
「ぎゃははははッ!」
お腹があったら、腹を抱えて笑いたいところである。
ぶんッ!
無駄にもかかわらず、鉄玉郎は少しも慌てず、突きや蹴りを繰り出し続けた。身体にまとわりつく黒い雲がなければ、演武のようだった。
正拳中段突き、裏拳正面打ち、手刀顔面打ち、上段前蹴り……。
意外にも、鉄玉郎の空手は基本に忠実だった。頭がこれほどまでに型破りにもかかわらず、使う空手は古典的。
これが、鉄玉郎の空手のスタイルだった。
ぶんッ!
しゅッ!
まったく効き目のない技を繰り出し続ける鉄玉郎。目は半目。無の境地である。単に眠くなってきたのかも知れないが……。
今朝は顔を洗ってないので、目やにがついていた。
汗で腋臭が臭い。
股間には恥垢が溜まり、インキンタムシが発生していた。
物理的に倒せなくても、超音波でネズミを防ぐように、臭いで攻撃する作戦だろうか。
このバカ中卒めッ!
無駄だとわからないのッ?
ああ、いらいらしてきたッ!
やはり、中卒だから理解力がないのねッ!
客観的に見て、もう確実に負けているのにッ!
いい加減、敗北を認めて、ひれ伏したらどうなのッ?
とっくに、あんたは負けているんだから、早く降参しなさいッ!
今すぐッ!
0、1秒で土下座して!
鼻水垂らして!
号泣して!
謝れッ!
謝れッ!
もともと、こらえ性のなかった心霊女子大生は、ぶち切れかかっていた。
対する鉄玉郎は、まるで爬虫類のようにしつこかったッ!
舌の先が二つに分かれていても、おかしくないくらいだッ!
やはり、この男には、暖かい血は流れていないに違いない。実のところ、ふぐりの裏には、何枚か鱗が生えていた……。
鉄拳会館の生徒たちの、心をへし折るのは、まったく簡単なことだったのに……、と幽霊は思った。だが、彼女は気を取り直すことにした。
ふふふ……。
まあ、これくらい気骨があるほうが、へし折りがいがあるわね……。
木は材質が硬ければ硬いほど、折れた時に派手な音を立てるという。
楽しみだわ。
その時は、この女性差別主義者の口から、さぞや悲痛な叫び声が発せられることでしょうッ!
ああ、あたしはその声を早く聞きたい。
聞きたくて、たまりません。
お前の苦しむ姿を見たい。
早く、見せろ。
早く死ねッ!
光の速さで死ねッ!
あたしは全身全霊で、この精神、神経網、霊的な組織体の、すべてで、お前の絶望した心を味わい尽くしたいッ!
女子大生は飢えていた。舌なめずりし、鉄玉郎を見つめる。その姿は、恋してるように見えなくもなかった。食べたくて、仕方がなかったのである。
ぶんッ!
ぶんッ!
「えいやッ!」
女子大生幽霊体の猛攻にもかかわらず、鉄玉郎はマイペースで、拳と足を繰り出し続けた。身体を覆う黒い霧には、まったく影響を与えなかったが、鉄玉郎の手足は恐ろしい速さで、空気を切り裂き、小気味よい音を立てた。
しゅっ!
しゅっ!
一撃必殺ッ!
もしこれが、物理的に存在している相手に当たっていたならば、確実に死に至らせていたであろう。それほどの強烈な技の数々だった。
効果はまったく上がっていなかったが、その攻撃は、繰り出すごとに鋭さを増して行った。
元女子大生の微粉末は、怒りに任せて鉄玉郎の身体を攻め続けた。顕微鏡サイズの何億人もの、血に飢えて怒り狂った女子大生が、身体中の細胞を食いちぎっている姿を、イメージすると良いだろう。
なんという天国のような地獄であることかッ!
肺の中まで入りこんだ女子大生部隊の活躍のおかげで、血液に酸素が行き渡らず、呼吸が苦しくてたまらない。
また、少し前まで爆音が鳴り響いていた鉄玉郎の耳は、今では食いちぎられる鼓膜の量も、残り少なくなったのか、キーンという人類の可聴範囲を超えたような耳鳴りが聞こえるばかりだった。
視界がかすむ。視力が落ちてきたようだ——老眼なのに。女子大生たちの粉末が、鉄玉郎の角膜をめくろうと、全力で力を合わせているのである。
その姿は、まるで中国の文化大革命時代の、人の命を屁とも思わない人海戦術のごとし、または、エジプトで何百人もの奴隷を岩の下敷きにし、ぶっ殺して建てたピラミッドの建造のごとし。
ただし、鉄玉郎の身に起こっているのは、建設ではなく破壊。鉄玉郎は、生きながら分解されようとしていた……。
身体の内側と外側に同時に激痛が走り、止まない。
おそらく、すでに身体中の血管、一本一本に、牙を剥いた凶悪なミニミニ女子大生が入りこみ、食事をしてるに違いない。
にも、かかわらず、鉄玉郎の緑色の血液は頭のてっぺんから、脳みそ、一心室しかない爬虫類の心臓、陰茎の海綿体、足の先まで、前にも増して全力で駆け巡り続けていた。
鉄玉郎は、今日ほど己の白血球にがんばってもらいたい、と願ったことはなかった。ある意味では、白血球は血液の中の鉄玉郎の分身である。全長十万キロメートルに及ぶ——赤道の二倍の長さ——血管の中で、極小の鉄玉郎と女子大生の壮絶な大戦争が、勃発していたのであるッ!
言うなれば、人体世界大戦ッ!
アウシュヴィッツが、NHKの教育番組に見えるほどの、度を越した残虐行為があちらこちらで散見された。
俺の血液の中が地獄だ。
血の涙を流しながら、鉄玉郎は真っ赤な中空を睨み続けた。
シャワーのように霧状の血が、目玉から吹き出す。
口や鼻からも、息をするたびに、竜が炎を吐くごとく、赤い霧が噴出した。
赤い放射能を吐くラーメン屋怪獣だ。
世界は赤外線コタツの中で、炙られているようだった。赤熱地獄……。ただし、地獄の鬼は巨乳の屍女子大生。鉄玉郎の怒りの炎に火がついてきた。
このままでは幽霊に殺される前に、身体中の血管がぶち切れて、自分で死んでしまいそうな勢いだった。
ぶん
最初に異変を感じたのは、鉄玉郎の中の辺境地帯である、毛細血管に忍びこんでいた微粉末女子大生たちだった。
その鋭利な千枚通しのような歯を使い、血管を内側から、がしがしと噛んでいたのだが、あまりの血流の激しさに耐えきれず、流されはじめたのである。大地震の時の土石流のように、血液が女子大生たちを襲った。
しかも、不健康な生活で動脈硬化の気があった鉄玉郎の血液には、大量の血栓が、洪水で押し流された木や岩のように、入り交じっており、流される女子大生の柔らかな身体をもみくちゃに翻弄し、ばらばらに引き裂いた。
この世で一番危険なのは、鉄玉郎の血液である。
言わば、死亡率百パーセントの天竜川の川下りのようなものッ!
尋常ならざる血圧が、女子大生の微粉末にかかったッ!
その圧力は、日本が誇る海底調査船『しんかい6500』でさえ、体験したことのない未曾有のものだったッ!
恐ろしいことに、正確な球形であるはずの粉末女子大生の分子が、鉄玉郎の血管内の超高速の勢いによる圧力により、楕円形に変形していた程であるッ!
宇宙の!
物理学をも!
超越する男!
鉄玉郎ッ!
右足のつま先にいた粉末のA子さんは、次の瞬間には、大脳のシルビウス裂まで、流されていた。
鉄玉郎の脳の構造はまったく驚くべきものだった。一度、凍って溶けた大根のように、一面にスが入っていたのである。
これでよく生きているわねえ……と女子大生は、呆れ果てた。
また、かなりの大きさの腫瘍が、トルコ鞍近傍で見つかった。粉末であるA子さんは、腫瘍に噛みついて、絶命させてやろうと思ったが、次の瞬間には、ふぐりの中に流されていたので、なすすべはなかった。むしろ、臭くて自分が死にそうになった。
A子さんを始めとする身体中の何億もの微小な女子大生たちは、押し流されて目が回った。
ぶはっ!
荒い息をするたびに、鉄玉郎の鼻から赤い霧が、長さ一メートルに渡り吹き出された。
幽霊女子大生は、その霧の成分である微小な血液のつぶ、ひとつひとつが超ミニミニ分子サイズの怒り狂った鉄玉郎であるような妄想に捕われた。
そんなバカな……。
そんな非科学的なことがあるわけないわ……。
幽霊女子大生は気を取り直した。もちろん、論理的に考えて、幽霊絶対有利の状況は、変わりようがない。
……しかし。
なにかが変わりはじめていた。
鉄玉郎は、鬼のような形相で、幽霊の頭がありそうなあたりに強い眼差しを向けた。心臓の鼓動に合わせて、目から赤い霧の花が咲いた。よくこんな状態で、生きているものである。
幽霊女子大生は、じりじりした。
あたしは霊体だ。
暗い微粉末の影でしかない霊体の頭が、ただの人間である、この男に見える訳がない……。
元女子大生は、自分を安心させるために、努めて論理的になろうとした。
ところが……。
こいつッ!
あたしの目を見ているッ?
いかなる神の御業を使ったか……鉄玉郎は、幽霊女子大生の目を、はったと見据えていた。
目が合ったッ!
赤い花が点滅する奇々怪々な鉄玉郎の眼差しに捕らえられ、彼女は失禁しそうになった。幽霊なので尿は出ないとは思うが、万が一なんらかの形で、おしっこを漏らした場合、その液体で自分の居場所がはっきりとばれてしまうかも知れない……と彼女は思い、パニック状態になった。
その瞬間、跳び上がった鉄玉郎の後ろ回し蹴りが、心霊女子大生の顔面に、もろに炸裂したッ!
どかッ!
もちろん、命中する訳がない。彼女は、気体だ。
ところが、幽霊女子大生は、確かに蹴りが顔面に炸裂した音を、その耳で聞いた。確実に命中したと思った、その心が生み出した幻聴なのだろうか?
幽霊とは言え、その基本となる心の動きは人間と同じものなのである……。
また、元女子大生は、恐ろしい事実に気がついていた。
幽霊の最大の長所は、生身の肉体である人間には、傷つけられない点にある。さもなけれは、柳の下にひゅうどろどろと出たとたん、侍に滅多斬りにされたりして、その結果、恐怖の対象として、畏怖されることはなくなっていただろう。
言うなれば、幽霊は形がない特典による特権階級だったのである。
ところが、彼女は鉄玉郎の跳び蹴りで、わずかに揺れていた。ほんの数ミクロン程度のものではあったが、そんなことは幽霊の歴史上——よくは知らんが、長いことは確かだ——前例を見ないことであるッ!
そんなバカな……。
霊体女子大生は、唖然とした。
しかし、確かにこの男の汚い踵が、自分の顔のあたりの空間を通過した時、微小な圧力がかかったのを感じた。
自信が揺らぎはじめた。
間髪を入れず、鉄玉郎は正拳の上段突きを、正確に顔面の位置にヒットさせた。
当たらないと、わかっているとはいえ、擦っただけでも確実に即死するような恐ろしいパンチが、顔のど真ん中を通過するのである。そんな体験をする女子大生の心のおびえは、いかほどなものか……。
しかも、少し当たってきている気もするのである。
「きはええええええええええええッ!」
怪鳥のような奇声を上げる鉄玉郎。鳥インフルエンザで完全に脳みその溶けたアホウドリが、耳元で絶叫しているような叫び。耳障りなんてものではない。音声による拷問である。
心霊女子大生は、肉体的に傷つけられることはなくても、音声により神経をおかしくされる可能性は、じゅうぶんにあることに気がつき、身の毛がよだった。
あたしの耳は、赤子のように無防備だ……。
もちろん、その尋常ならざる大声を出す行為は、身体が、がたがたになって弱っている鉄玉郎自身の命も縮めた。しかし鉄玉郎は、これでようやく肉を切らせて骨を断つ……というお得意の状況になってきた、と不敵に笑った。
「ちょもらまああああああああッ!」
八千万年前の古代からプテラノドンが蘇ってきたような奇声を上げながら、鉄玉郎は再び正拳上段突きを顔面に入れた。
絶叫とともに、大量の鮮血が鉄玉郎の口から、毒霧のように吹き出し、霊体女子大生の上に降り注いだ。
まさかッ!
驚いたのは霊体女子大生だった。
見えないはずの自分の身体が、鮮血を浴び、その女性らしい豊かな輪郭がくっきりと浮かび上がってしまったのだ。
女子大生は、巨乳で全裸だった。
気体なので残念ながら細部は見えないが、女子大生が動くたびに、豊満な肉体がぶるんぶるんと揺れるのがわかった。彼女の身体は、血で真っ赤に染まり、濡れて光っていた。実に猥褻な光景だった。
運動不足なようで、腹が出て胸も垂れ気味だった。もっとも、細部まで見えないのは、口が耳まで引き裂かれていたので、かえって良かったかも知れない。
鉄玉郎は牙を剥き、白亜紀の恐竜のように唸り声を上げた。
数秒かかって、幽霊女子大生は、それが笑い声だと気付いた。


あらすじ
空手家の黒岩鉄玉郎は弟子と肝試しに廃屋に入る。そこで見つけたのは、女のミイラ。それは異常な変質者にレイプ殺人されてしまった女子大生だった。ところが黒岩鉄玉郎は、女ミイラを空手で粉砕する。激怒した女ミイラの悪霊は、彼らを呪い殺していく。空手対幽霊という物理的に不可能な戦いが始まった!
登場人物
黒岩鉄玉郎 : 空手家
如月星夜 : ホスト
田中康司 : 糞オタク
堀江 : デブ
結衣 : 風俗嬢
女子大生 : 被害者
青田寧男 : 新宿署刑事

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