【怪奇小説】ウンコキラー〜ネズミ捕り〜

〜ネズミ捕り〜
親愛なるイエス・キリストに生贄をささげた効果があった。その日のうちに老人ホーム『天国の門』で動きがあった。どうやら、神は実在するようだ。
天国の門の裏庭。ここは庭掃除の道具などが入っているヨド物置がある雑草のはえた狭い空き地である。薄暗い。夏の終わりころには蚊だらけになるだろう。柵をへだてて、珍保長太郎の隠れている児童公園がある。木の上の珍保長太郎からは、老人ホームの裏庭がよく見えた。
「臭いッ!」
おなじみのミザリーこと神保千穂のいらだった声が聞こえた。外見は大阪の女性コメディアンみたいだが、見ていても少しも愉快な気分にはならない。
「この数日間、ずっと臭いと思っていたら、ほらっ! ネズミ捕りにかかったネズミが死んでいたッ! 死んで腐っているッ! 死んで腐っているッ!」
ミザリーはいつも虐待しているらしい『死にかけ老人』こと大山田統一郎を、なぜか裏庭に連れてきていた。マゾ奴隷を率いる女王様のようなものだろうか。
「見ろッ! この真夏の灼熱ですっかり腐って大量のウジ虫が湧いているッ! 手に持っているだけで、液体のようにポタポタとウジ虫が流れ落ちるほど、湧いているッ!」
ミザリーはしっぽを持ってぶらさげたネズミを、死にかけ老人に突きつけた。さきゆきの短い老人にこんなものを突きつけてどうしようというのか。ご意見とご感想を聞きたい、とでもいうのか。
「ひひぃ〜、腐ってウジが湧いていますッ! これ以上どうしようもないくらい、全力で腐りきっておりますッ!」
死にかけ老人はオウムのようにそのまま答えた。アルツハイマーで脳みその細胞のかなりの部分が壊れているのであろう。
「ほうらッ! 臭い臭いッ! 腐ってる腐ってるッ!」
しっぽを持ったネズミをブランブランさせて、じりじりとせまってくるミザリー。
「はい、その通りでございますッ! 考えうる限り、全身全霊で腐っておりますッ!」
前線の日本兵のように直立不動で答える死にかけ老人。恐怖の匂いが老人臭にまじる。すっかりおびえて、おしっこを漏らしそうになっていた。紙おむつをしているので、漏らしても問題はないのだが。
「かわいそうな老人をまたいじめている……」
珍保長太郎は木の上から彼らの動きを観察し、憤っていた。
「やはり、老人虐待をやめていたのは、一時的なものだったのだ。警察に目をつけられるのを警戒してひかえていたのだろう。痴漢や変質者と同じで、犯罪をやめることができないのだ。病気なのだ。けがらわしい。汚らしい。更生したように見えても、きゃつは必ずまた実行するのである……」
ポケットの中のスマートフォンで警察に通報しようかとも思ったが、逃亡者の身の上ではそれはできない。また、老人虐待くらいで通報しても、木で鼻をくくったような、けんもほろろの反応しか返ってこないのは目に見えている。こういう時の警察の対応はわかっている。電話でいじめている本人に連絡をして、いじめているのか、と聞く。もちろん、本人は認めるわけがないので、していませんと答える。すると、そうでしたか、と納得して引き下がってそれ以上何もしないのである。珍保長太郎は警察組織の腐敗ぶりに怒りで目がくらみそうになった。
「見てッ! この腐りきって二倍くらいに膨らんでいるネズミのお腹を押すと、ケツの穴から、どろどろに溶けたハラワタとウジ虫がまざった液体が出てくるわッ!」
その通りのことをするミザリー。
「ひいっッ!」
悲鳴をあげた死にかけ老人。大きく口を開けて凍りついている。その口の中に、こともあろうか、ミザリーは腐った内臓をそそぎこんだ。
ブュチューッ! ドロドロ!
ゴクンッ! ゴクンッ!
おぞましいことに死にかけ老人はすでに喉の筋肉が弱って緩んでいた。注ぎ込まれたネズミの内臓物は、なんら拒まれることもなく、勝手に喉を経過して胃の中に収まってしまった。
「うげえッ! 臭い臭いッ! 腐ってて臭いッ! 腐ってて臭いッ!」
もだえ苦しむ死にかけてる老人。両足の先くらいは、もう完全に棺桶の中に入っていた。
「あらっ、ごめんなさい。ネズミを捨てようと思って持ち上げたら、中から思わぬ液体が出てきて、ぐうぜんに大山田さんの口の中に入ってしまったわ。オッホホホッ! 運が悪いわね!」
悪魔のようにミザリーが笑う。
「うげえうげえ」
吐きそうになる死にかけ老人。吐こうにも喉の筋肉が弱いので、なかなか出ないのである。正月に餅が喉に詰まって死ぬ老人とおなじ原理である。それを木の上から双眼鏡で覗いている珍保長太郎も吐きそうになった。
ゲボゲボゲボッ! ゴボッボッボッボッ!
念願がかなって、とうとう大量のゲロを吐く死にかけ老人。朝食は塩鮭だったようだ。なかば消化された朝食とウジムシとネズミの内臓が溶けたものの混合物が、死にかけ老人の足元に水たまりを作った。ゲロを吐くことは人間の生理に反した苦しい作業である。死にかけ老人は白眼をひんむいて涙を流した。悲しくてたまらない。それにしても、末期癌のくせになかなか死なないものだ。
「食べ物を粗末にするなーッ!」
思わぬことを言い出すミザリー。しかし、その目つきは本気。虐待にために芝居をしているのではなく、本心から怒っているようだ。
「日ごろから食育をしているのを忘れたかッ! 日本の資本家たちに搾取されているかわいそうなお百姓さんたちが、たんせいをこめて作った食べ物を粗末にすなッ! ぜんぶ戻しやがってッ! ブッ殺すぞッ、じじい!」
思わぬ方面から来たミザリーの激怒に、びっくりする死にかけ老人。もともと、ぼけているのだから話の展開にまったくついていけない。
「でも、その半分はウジとネズミの内臓ですぅ」
弱々しく反撃を試みる死にかけ老人。その反撃がミザリーの怒りの限界点を越えさせた。なにかのスイッチを押してしまったのだろう。
ミザリーは介護士という自分の職業を、道徳を学ばせる教育者のようなものと捉えているようだ。
「素直にあやまれば許してやるつもりでしたが、このような厚顔無恥な言い訳を並べられては、処罰を与えないわけにはいけませんねッ! 暴力は大嫌いですが、教育のためには、こらえるしかありませんねッ! 神は断じて嘘つきは許しませんッ!」
ここはキリスト教関係の老人ホームだった。ミザリーの血も涙もない目が光る。かんぜんに青ざめる死にかけ老人。
「出したゲロを飲めッ!」
教育者としての厳命をくだすミザリー。襟を正している。りんとした表情。大和なでしこ、ここにありだ。死にかけ老人の足元にたまっていたゲロを、庭掃除のチリトリとホウキでかきあつめる。続いて、チリトリの中に入ったそれを、死にかけ老人の口に入れようとする。
「ゲロを出したことは、とうぜんながら神様にとっては確実に地獄行きを判断させる材料ですが、それを後悔し反省するならば事情は変わります。神は心優しいのです……。神はゆるしたもうッ! 神はゆるしたもうッ!」
絶望のどん底に叩き落とされた死にかけ老人に助けの船を出すミザリー。死にかけ老人はかすかな期待に胸をときめかした。
「ですから、反省の証として、出したゲロを一度口に戻して飲み込んでから、それをちゃんと食物として立派に消化して肛門から排泄したならば、やり直したということで、プラスマイナスゼロになる可能性がありますッ! 慈悲深いイエス様に幸あれッ!」
恍惚とした目で天上を見上げて硬直するミザリー。エクスタシーをむかえているようだ。イッたら筋肉が柔らかくなったのか、突如、ゲロを一気に死にかけ老人の口に流し込む。
「うげんッ! うげんッ!」
流れ込んでくるゲロに苦しむ老人。
「これは親切ですよッ! 愛ですよッ! 愛ッ! いつくしむ無限の愛ッ! これが神の愛なんですわッ! ここに神の愛が見えませんか?」
ゴックンゴックン!
とうとう血走った目で、ゲロをぜんぶ飲み込んでしまった死にかけ老人。神の愛の検査には合格したはずだが、神の愛が原液で強すぎたのか、無表情になり動かなくなった。発狂したのだ。まるで路傍の水子地蔵のようだ。路傍の石とは、このことだ。彼はどこかに逃避しているのだろう。心の中では誰でも天国だ。
ポン。
よくやったとばかりに、ミザリーは死にかけ老人の肩をたたく。天使のように微笑む。心は純粋でやさしいのである。原理主義者で人質の生首を切断して歩くような人間は、気の狂った犯罪者ではない。みんな極端にまじめなやさしい人たちばかりなのだ。彼らは自分なりに善をなしている。二人は親友同士のように肩に手をかけ、裏口のドアを開けて、老人ホームに戻っていった。
「この気の狂ったキチガイめッ!キチガイッ!キチガイッ!」
覗いていた珍保長太郎は木の上で激怒をしていた。
「俺は犯人を確信したッ! 間違いない、ウンコキラーはミザリー!」

あらすじ
代田橋でウンコを口に詰めて殺す『ウンコキラー』による連続殺人が起きていた。犯人だと疑われたラーメン屋店主、珍保長太郎は真犯人を見つけるべく、孤独な戦いを始めた!
登場人物
珍保長太郎 :『ラーメン珍長』店主
バカ :新実大介
刑事青赤:
刑事青、青田剛
刑事赤、赤井達也
ミザリー、神保千穂
キャリー、小杉浩子
死にかけ老人、大山田統一郎

イラスト

くまちゃんウィルス

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