【怪奇小説】ウンコキラー〜地獄の底〜

〜地獄の底〜
深夜の代田橋である。キーコ、キーコと珍保長太郎は愛用の業務用自転車、チンポ号を走らせていた。運動である。中年になってから珍保長太郎は急に太り出してきた。もともと、大飯食らいの上に毎日、大量に売れ残っている背脂がコテコテしたラーメンを食っている。デブになって当然である。
これが20代ならば、背脂が筋肉に変わることもあろうが、中年になったならば背脂はそのまま腹脂に変わってしまう。たんに移動するだけである。これではいけない、と珍保長太郎は深夜に仕事が終わってから、二時間、業務用自転車で走ることにしていた。もともと、重い上に整備が悪いのでチンポ号を走らせるのは、かなりの重労働だった。運動という意味ではちょうど良い。
「オマンコしてえな」
無意識に思ってることが口に出てしまう珍保長太郎。
「肛門がかゆいな」
異常人格者とはいえ、ろくなことを言わない。
「いかん、ウンコがしたい」
珍保長太郎はちょっと深刻な顔になった。このへんは荒れ果てた貧民街である。だから、珍保長太郎のようないいかげんなラーメン屋でも、家賃が安いからやっていけるのであるが、そのかわりトイレがない。これは貧乏人しか住んでいないので、税金があまり取れないせいである。そのために区の方で公共施設にかけるお金がないので、公衆トイレがどこにもない、という事態になっているのだ。
「ウンコががまんできない……」
珍保長太郎は小学生の時に二回ウンコを漏らした体験がある。今でもたいへんなトラウマになっている。カッとなってすぐに人を殺したりするのも、教室でウンコを漏らした悲しみが原因ではないだろうか。
「怖い……。ウンコを漏らすのが怖い」
小学生ならまだしも、中年のおっさんが道端でウンコを漏らしたら、あまりにも救いがなさすぎる。まさに地獄のようだ。地獄で麻原が待っているぞ。
ニョキ。
肛門の穴からサツマイモの先のようなものがすこし顔を出す。
「いかん、しゃれにならない。絶体絶命だ」
大原稲荷神社にさしかかった。陰気で暗い。神社なのにすこしも聖なる感じはしない。低俗で下品。悪霊のすみかのような不吉で不潔な場所なのであるが、珍保長太郎にとっては幸いなことに、そのおかげで深夜はあまりひとけがない。
キキッ。
業務用自転車を止めて真っ暗な境内に入っていく。神経がないので、とくに霊などを怖がることはない。
「どこかにウンコをしても怒られないような場所はないか?」
珍保長太郎は広い敷地を見渡す。でも、暗いのと老眼で、なにも見えない。
「よくわからないが、とりあえず、一番奥まで行って出せば良いのではないか?」
ということで、どんどん奥に進む。奥の方は墓場になっていた。悪霊神社のどんづまり。つまり地獄の底。いかにも、行き場を失った怨霊や水子の霊が、吹き溜まっていそうなところである。湿っぽくてじめじめと臭い。腐った沼のような臭いがする。
通常の神経の人間ならば、ためらうところであろうが、珍保長太郎はとくに感銘をうけたようすはなく、茂みの陰でしゃがんで尻を出した。
むりむりむりむり。
「ふーっ。ごくらくごくらく」
困難を乗り越えてすっきりした顔をする珍保長太郎。機嫌が良いようだ。だが、その直後に地獄が待ち構えていた。
「いや待て。紙がない」
みるみるうちに青くなる珍保長太郎。
「こまった。これではパンツがウンコだらけになる。こういう時に限って、ねばっこい切れの悪いウンコだ。あきらかに直腸の中にまだ切れ端が残っている。このまま自転車に乗ったら、圧力で腸内のウンコが押し出されてしまい、パンツがさらにウンコだらけになってしまうであろう……。なんと恐ろしいことか……」
絶望する珍保長太郎。なんとか被害を最小限に止めようと、そこらの葉っぱで拭こうと考えた。暗闇の中に手を伸ばすが、あたりにはあまり大きな葉っぱが見つからない。さらにゴソゴソと地面を引っ掻き回していたら……。
髪の毛の塊のようなものに手が当たった……。
「ぎゃっ」
思わず小さな悲鳴をあげる珍保長太郎。肛門の先から数センチのウンコを突き出したまま、さらにおしっこを漏らしてしまった。これ以上の悲劇は世界ではあまり例を見ない。ちょっと勃起した。
それにしても髪の毛である。やばい。なんだろうか。だが、こういう時、人間の心は勝手に恐怖と幻想を作り出すものだ。正体がわかれば、な〜んだ、という笑い話になるのでなかろうか?
そこで珍保長太郎は恐怖をこらえて髪の毛の塊のようなものにふたたび手を伸ばした。その時、月の光が運命のように差し込んで茂みの中を照らした。顔中ウンコにまみれた女の死体だった。
「ウンコキラーの犠牲者……」
直球すぎる。死体のようなものかと思ったら、そのまま死体だった。ふいに枯葉を踏む足音が聞こえた。
「わん! わん! わん! わん! わん! わん!」
見ると犬を連れた近所のおっさんが入ってきた。懐中電灯で珍保長太郎を照らす……。その明かりが照らし出したものとは、ウンコを口に詰められて死んでいる髪の長い女の死体と、ケツからすこしウンコを出してしゃがんでいる目つきの悪い中年男である。
いかん、ぜったいぜつめいに俺、怪しすぎる!
「人殺し〜ッ!」
絶叫する近所のおっさん。もっともな反応である。いっそ、このおっさんと愛犬を殺してしまえば、窮地から逃れられるのではないか? と短絡的なことが頭に浮かんだ珍保長太郎。しかし、それでは余計に窮地に追い込まれると、寸前で思いつき却下した。代わりに全力でおっさんを突き飛ばす。
「死ねッ!」
つい習慣で余計なことを口走ってしまう珍保長太郎。これでは『私が犯人です』と念押ししてるようなものではないか。ゴロンゴロンとボーリングの玉のように転がっていく近所のおっさん。手から落ちた懐中電灯が何かを照らす。
「こ…これは」
趣味の悪い大きなリボンが落ちていた。ムラサキ色。こんなリボンをつけるような人間は一人しか思いつかない。しかも、その人物は最近、このリボンをなくしたと言っていた……。
ガブッ!
犯人の推理をしていた珍保長太郎に、おっさんの愛犬が噛み付く。飼い主に忠実な犬のようである。だが、今の珍保長太郎には、愛犬の献身的な愛情に感動してる余裕はなかった。なさけようしゃなく、ぜんりょくで犬の腹をけとばす。
「キャイーーーーーーーーンッ!」
小型犬だったので20mくらい宙を飛んで行った。落ちてからは鳴き声がしなくなったので、天国に行ったのかもしれない。これでは、殺人罪で告訴されなくても、動物愛護法で有罪になるかもしれない。
「いかん、どんどんドツボにはまっていくぞ。おもしろいくらいに」
ウンコのちょっとついたリボンを持って、大原稲荷神社の境内を走る珍保長太郎。入り口に止めていた業務用自転車にまたがって、サドルにウンコをこすりつけながら、全力で走り出した。自由に向かって。

あらすじ
代田橋でウンコを口に詰めて殺す『ウンコキラー』による連続殺人が起きていた。犯人だと疑われたラーメン屋店主、珍保長太郎は真犯人を見つけるべく、孤独な戦いを始めた!
登場人物
珍保長太郎 :『ラーメン珍長』店主
バカ :新実大介
刑事青赤:
刑事青、青田剛
刑事赤、赤井達也
ミザリー、神保千穂
キャリー、小杉浩子
死にかけ老人、大山田統一郎


創作ブログランキングに登録しています。 クリックが励みなりますので宜しくお願いします。

神田森莉の本

死骨

死骨

今から40億年前。ペルセウス人たちの宇宙船が故障し地球に不時着した。ペルセウス人は夢と現実のあいだを行き来する不思議な文明を築いていた。彼らは「感情波」と呼ばれる「人間」の感情の動きをエネルギー化して利用していた。そのバッテリーがゼロになってしまったのだ。

彼らはこの地球に文明が生まれ、たくさんの「感情波」があふれる日を待つしかなかった。いくら長寿のペルセウス人でも40億年は長すぎた。彼らはいつしか歪んだ心を持ち始め、人類の歴史に様々な恐怖を与えるようになっていた。より多くの「感情波」が放出されるように。

ホラー漫画家、神田森莉の長編SF小説。

くまちゃんウィルス1

くまちゃんウイルス(1)

人の良いくまちゃんが世知辛い世間に翻弄されてダメになっていく姿を描きます。しっかりしてください。


リンク