【怪奇小説】ウンコキラー〜ラーメン珍長〜

〜ラーメン珍長〜
「ウンコキラーか」
珍保長太郎はラーメン珍長のカウンターの中でつぶやいた。店長である。もごもごして滑舌が悪い。2m近い大男である。巨乳女子大生がウンコを持った精神異常者に襲われたマンションは、駅を挟んで反対側にある。珍保長太郎はそこの一階にある八百屋をよく利用していた。極端に安いのである。安いがもちろん質が良くない。おそらく、どこかで捨てられそうになっている『訳あり』の野菜をかき集めて売っているのではないか? または、もっとストレートに市場で捨てられてるゴミを拾ってきているのかもしれない。
こりゃあ安いわい、と買ってきても、ニンジンなんかは根っこの先が腐っていたりする。だが、それを食うのは客なので、珍保長太郎は、まったく気にしていなかった。
「代田橋殺人事件ですか、店長?」
珍保長太郎は客に声をかけられたので新聞から顔を上げた。不愉快な気分である。黙って睨みつけた。だが、客はまったく気にしなかった。
「実は口の中にウンコを詰め込まれて死んでいたらしいですよ。これは一般のニュースでは報道されていませんが。俺は情報通なのでヤバネタや裏情報はなんでも知っているんですよ、店長!」と、偉そうな顔で言ってるのは、常連客のバカ。もちろん、バカという名前の人間がこの世に存在しているわけがない。珍保長太郎が勝手につけたあだ名である。確か本名は新実大介と言った。何回目か来た時に誰も尋ねていないのに勝手に自己紹介を始めたのである。本当にウザい人間のクズだった。
「ウンコか……。ウンが悪かったってやつだな。ぎゃはっはっはっはっ」
珍保長太郎は理性のかけらも感じられないような、思い切りくだらないギャグをとばせば、このバカも嫌になって帰るのではないかと期待して言った。
一瞬、バカは無言になって店長を見つめた。それから、おおっ神よ! なんということだろう。破顔して爆笑してしまったのである。
「ぶははははッ! さすが店長、ギャグセンスが良いですねッ! ハラワタがよじれるとはこのことですッ!」
木のカウンターをドンドンと叩くバカ。
しまった、このバカの頭のレベルにちょうどぴったりだったようだ。珍保長太郎は歯ぎしりをして悔しんだ。
このバカは『ラーメン屋で店長と親しく会話をする常連客』になったつもりでいるのだろう。おそらく、どんなつまらないことを言っても、すべて爆笑する心構えでいるのではないか。
心の底からこのバカが嫌いだッ!
珍保長太郎は怒りに燃えて、髪の長い若い男を睨みつけた。だがバカはそんな店長のアピールに少しも気づかない。だから、バカと呼ばれているのであろう。
「それにしても、この近所に完全に気の狂った殺人鬼が野放しでいるなんで、興奮しますよね。これまで数人が殺され、さらに未解決事件のいくつかもこの犯人の仕業の可能性があると言われています。でも、きっともっと増えますよ。断言します。殺人は癖になるんです。猟奇犯罪研究家の俺が言うんだから間違いありません」
力説するバカ。この『猟奇犯罪研究家』の内訳は、『マーダーケースブック』の全巻セットをヤフオクで買って読んだ、というだけのことらしい。これで研究家を名乗れるのなら、世の中、研究家だらけになって歩くこともできなくなるだろう。
「次はお前がウンコを食わされて死ねばいいのに」
バカの目を見ながら珍保長太郎は率直な気持ちを伝えた。さすがにちょっと嫌な顔になるバカこと新実大介。
よし、もう一押しだ、もう一押し嫌な気分にさせれば、このバカは二度と店に来なくなる……。がんばるぞ!
珍保長太郎は、はやる気持ちを抑えて、バカが席を立って出て行くのを期待した。なるべく冷酷な顔をしていようと思ったが、珍保長太郎は単純なところがあるので期待が顔に出てしまいちょっと笑顔になってしまった。
それを見てバカは『店長は俺を嫌いなのではなく、どのすぎたブラックジョークを言ってるらしい』と、勝手に自分に都合をよく解釈した。このへんは本当にバカである。おそらく、軽度の知的障害があるのではないか?
「いや、連続殺人鬼というものはですね、秩序型と非秩序型という二通りにわかれるのですが、この犯人の場合、毎回、ウンコを食わせていますから秩序型なんですよ。だから、次回も殺されるのは女性になると思います。ほぼ、まちがいはありません」
誰も聞いていないのにもかかわらず、一方的に講釈を垂れるバカ。薄気味悪いオタクに共通した特徴である。
「まあ俺はあきらかに非秩序型だな。この厨房の散らかり具合をみればよくわかる」
「まったく、その通りですよね、店長。ほんとうに人とか5、6人は殺していそうなふんいきがありますよね。ほんとうは殺ってるでしょ?ぎゃはははっ、げらげらげら」
一人で爆笑するバカ。
「ほんとうに心の底からおもしろくもない」
いらいらしてきたので、珍保長太郎はふつうに返した。バカは食うのが遅い。そのために、かんぜんに伸びきっているラーメンをまだ食っていた。珍保長太郎は、バカに食うのを中断させ襟首をつかまえ店の外にほおり投げようと決めた。手を伸ばして襟首を掴む。何事かと思ってバカが顔を上げた。
グイッ!
珍保長太郎はバカを手に持ったラーメンドンブリごと持ち上げた。
「うわっ」
驚くバカ。
それから、足で店の扉を開けて、全力で顔面からバカを代田橋駅前商店街のアスファルトの路上に叩きつけた。カランカラン。手にしていたラーメンドンブリが転がって走っていった。
「痛いッ痛いッ!」
口から血を流して苦しむバカ。まな板の上のウナギのように、のたうちまわっている。前歯が何本か折れたようだ。商店街の通行人が何事かと思って周りに集まってきた。珍保長太郎はカーッと喉から痰を出して、ペッ!とバカの血だらけの顔面に吐きかけた。
「気分爽快であるッ!」
珍保長太郎はさわやかに宣言して店の中に戻って扉を閉めた。

あらすじ
代田橋でウンコを口に詰めて殺す『ウンコキラー』による連続殺人が起きていた。犯人だと疑われたラーメン屋店主、珍保長太郎は真犯人を見つけるべく、孤独な戦いを始めた!
登場人物
珍保長太郎 :『ラーメン珍長』店主
バカ :新実大介
刑事青赤:
刑事青、青田剛
刑事赤、赤井達也
ミザリー、神保千穂
キャリー、小杉浩子
死にかけ老人、大山田統一郎

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