【怪奇小説】青虫ラーメン〜死ぬ時は誰でもひとり〜

〜死ぬ時は誰でもひとり〜
翌朝。豚野餌吉の頭の霊は消えていた。
珍保長太郎はそれから、ちょいと所用で練馬区に出かけてもどってきた。
「幸先の良いスタートだ。もし、目が覚めた時に豚野餌吉がまだチンポをくわえていたら、俺は確実に自害していたことだろう……。これほど、嫌なことはないからな」
珍保長太郎は帰りの京王線の中でつぶやいた。つり革にぶらさがっていた両隣の客が不気味に思い少し間隔を空けたが、珍保長太郎は気が付かないふりをした。あまり、心の中で思ってることをそのまま口に出すのはやめようと思った。しかし、無意識に漏れているのだから、止めようがないのではあるが。
代田橋で降りて、先日、拉致された暴力団の事務所らしきところに行った。とは言っても入り口に『暴力団事務所』などと書いてあるわけではない。古い雑居ビルの部屋の案内の場所には『上下商事』と書いてある。とくに意味のない適当な名前を付けたらしい。
ヤクザ業界のことはよく知らないが、たぶん、一応、表向きはまっとうな会社組織になっていて、その裏でいろいろな非合法な稼業を行なっているのだろう。あまり、広くはない。組の正式な事務所は、ほかにあるのだろうか。あるいは、ほんとうに小さな地元の組で、ヤクザ悪左衛門と手下2名しかいないのかもしれない。
「お前らを全員、叩きつぶしてやる……」
珍保長太郎は雑居ビルを見張りながら、一応、そうつぶやいてみたが、別にそこまで大規模にやるつもりはなかったし、その手段もない。気分だけ出してみたのだ。あと、また独り言が漏れてしまったと思ったが、これはもう治らないのかもしれなかった。
夜になってビルの入り口から、子分の糞賀臭男と歯糞全身男が出て行った。たぶん、彼らは家に帰ったのだろう。残りはヤクザ悪左衛門ひとりかもしれない。良い傾向である。死ぬ時は誰でもひとりだ。
「小便が漏れる……」
また思ってることが口に出てしまった。これでは、自分の心の中身を他人に知られてしまう超能力を持っているようなものだ。それはともかく、50歳を目前にして珍保長太郎はたいへんに尿が近い。
「これも老化現象のひとつだ」
ちょいとラーメン珍長に戻って、トイレで用を足しながら珍保長太郎は、独り言をだだ漏れさせた。独り言も漏れるが尿も漏れる。まったく、垂れ流しの人生だ。
珍保長太郎は、ふと思いついて店に置いてある酔っぱらい撃退用の木製バットをもって監視に戻った。それほど、具体的な計画があるわけではなかったが、これがあると便利そうだ。
珍保長太郎は無駄に背が高い。しかも、目つきがおかしい。このようなものが、ぶつぶつ本人にしかわからないことを、つぶやきながら木製バットを持って、暗闇に立っているのは怪しすぎる。
「これでは腐れお巡りが通りかかったら尋問されかねない。会話の展開によってはお巡りを殴り殺さないとならないことになるかも知れない」
血走った目で珍保長太郎は、人気のない夜道を睨んだ。
今、お巡りが来たら確実に殺していただろう。
来なかったのは警官にとっては幸いだった。
「命が延びて良かったな。お巡り」
珍保長太郎は、にやりと悪魔のような顔で笑った。警官の命をひとり救ったことで、良いことをしているような、すがすがしい気分になった。
ところで夜道を歩いていて怪しまれない方法が二つある。犬を散歩させているか、ジョキングをしているかである。そこで珍保長太郎は野球の練習の帰りに、バットを持ったまま走ってる男のふりをした。
「ヒット エンド ラ〜ン」
暗闇でバットを振り回してみたが、どう見てもよけいに怪しくなったのでやめた。
ヤクザ悪左衛門が、こそこそと周辺を気にしながら、ビルから出て来た。珍保長太郎は後をつけた。指名手配されていると言っても、一生、事務所の中に隠れているのは不可能であろう。あまり人目につかないように、時々は外出をしてると思われる。ヤクザ悪左衛門は運が悪いことにラーメン珍長に向かう道を歩んでいた。
「いたせりつくせりとは、このことだ」
後ろを歩いていた男が、急に変な独り言を言ったので、ヤクザ悪左衛門は、ぎょっとして振り向いた。大きな男がバットをかまえていた。
「ホームラン!」
ばっこ〜〜〜ん!
小気味良い音が夜道に響く。思ったよりでかい音がしたので、慌てて珍保長太郎は気絶したヤクザ悪左衛門を店の前までひきずって中に入れた。
珍保長太郎はヤクザ悪左衛門の身体を探った。チンポとか玉袋をさわって性的な興奮を得ようとしたわけではない。事務所の鍵を探していたのだ。鍵を見つけると、珍保長太郎はヤクザ悪左衛門を意識が戻っても動けないように縛り上げてから、暴力団事務所に戻った。家捜しをして目的のものを見つけてから、珍保長太郎はラーメン珍長に戻って、おなじみの行動を始めた。
まずいラーメンを作り出したのである。
ヤクザ悪左衛門は目を覚ました。一瞬、間を置いて頭が割れるように痛くなった。『ように』というよりは、じっさいに頭蓋骨が少し割れてるのではないか。
ヤクザ悪左衛門は夜道で大男に殴られたことを思い出した。サツに捕まるより始末が悪い。キチガイに囚われるというのは……。
身体を動かそうとしたが、ロープでイスに縛られていた。業務用のペラペラのビニールのやつだ。あれは安いが人力ではまず切れない。むしろ、身体に食い込んで苦しくなる……。
どこかで嗅いだことのあるすえた脂の匂いがする。不潔な中華料理屋の匂い。あたりを見回してみた。以前、良く来ていたラーメン珍長だった。すると、あの大男は店長だったのか……。ヤクザ悪左衛門は嫌な予感がした。自分も凶暴性という点では、まともではないが、あの店長の目つきは気に入らない。
やさ男だが、どこか精神的な疾患のある顔だ。たぶん、気は弱いのだろう。でも、こういうやつほど、相手が抵抗できない状態になったら、なにをするかわからない。弱いやつほど残酷なことをするものだ。ヤクザ悪左衛門は人の弱みに付け込む商売をしているだけに人を見る目は確かだった。
ごとごとごと。
とんとんとん。
調理場で料理を作っている音がする。外の明かりが入って来ないところを見ると、店のシャッターを降ろし、締め切っているようだった。ヤクザ悪左衛門は叫んで助けを呼ぼうと思ったが、そもそも、ここらは夜中は人気がないのと、警察が駆けつけてくるのは、もちろん非常に困るのと、さらにヤクザが弱そうに助けを呼ぶのは男のプライドがゆるさない。そういうわけで、自分一人でここはどうにかしようと決めた。
ぷ〜〜〜〜〜ん。
ラーメン珍長のおなじみのまずそうなラーメンの匂いがして来た。ここのはまずいのである。ヤクザ悪左衛門の一生で一、二を争うまずさだった。金はなさそうだったが、こういうしょっぱい店から、こつこつと金を搾り取るのが場末のヤクザ稼業のこつである。
だが、この店長、意外とかたくなで、おしぼりを買おうとしない。簡単な案件だと思ったら難航してたので、あれやこれやで腹が立って来て、このような指名手配になってしまったのだが……。そもそも、月1万かそこらの金をけちる店長が悪いのである。この男がめんどくさいことを言わずに、さっさと金を払っていたら、このようなことにはならなかったのに。ヤクザ悪左衛門は店長のひ弱なくせに頑固なところに腹が立った。
「気が付きましたか」
珍保長太郎は一見親しげに声をかけた。でも、目つきが変だった。ヤクザ悪左衛門は珍保長太郎の血走った目を見て嫌な気分になった。シャブはやっていないようだが……。しかし、シャブの末期症状で追いつめられて凶行をしでかす人間がよくこういう顔をしている。
この世には薬に頼らなくても天然のシャブを体内で自分を作り出すような人間もいる。ヤクザ悪左衛門は同業でこういう人間を何人か知っていた。いずれも、ふつうにキチガイだった。ヤクザ稼業を続けられないほどのキチガイ。幾人かは死刑になり、あとは死んだり殺されたり破門されたり。天然物ほど、嫌なものはない。ヤクザ悪左衛門は苦しい戦いになるのを覚悟した。
怒らせてはいけない……。
素人相手にこんなことを考えるのはいやだったが、ヤクザ悪左衛門は楽天的な気分にはどうしてもなれなかった。
「今日はスペシャルメニューです」
珍保長太郎がカウンターの上にラーメンを持って来て置いた。見ると麺の上になにか細長いものが、ごろごろ転がっている。
「青虫ラーメンです!」
自信ありげに言うまずいラーメン屋の店長。
そら来たぞ、とヤクザ悪左衛門は思った。
よく見ると、その細長い転がっているものには短い足がたくさんついていた。吐きそうになったが、ここで弱みを見せると相手がますます調子に乗るのがわかっていたので、なんでもないふりをした。こっそり、喉を上がって来たゲロを気付かれないように飲み込んだ。夕食前だったので、ほとんど胃液だった。空腹だが今や食欲は完全になくなった。
「お口にめすと良いのですが……」
珍保長太郎が無邪気に微笑む。珍保長太郎は、このために練馬区の大泉学園に行って青虫を採って来たのだ。練馬区にはキャベツ畑が多いのである。まだけっこう暑かったので、畑は青虫だらけだった。畑にあったのは収穫が終わった後のくずキャベツ。収穫をあきらめた株が伸び放題に育っているやつである。キャベツ畑は、葉の腐ったひどい匂いがしていた。
珍保長太郎は嬉々として青虫を採りまくった。採り始めたら意外と楽しかったのである。この仕事に向いている。青虫を割り箸でつまんで集める職業があれば、我勇んで就職するのに、と珍保長太郎は思ったが、たぶんないだろう。
「食うわけがなかろう」
ヤクザ悪左衛門がせいぜい、すごんで言った。効果はあまり期待できないな、と思いつつ。
「そんなことを言わずに食べてくださいよ。アフリカでは飢餓に苦しむ子供たちが毎日、死んでいるのですよ。こんな栄養豊かな虫ラーメンを食わないなんて、アフリカ中の子供の霊にたたられてもいいのですか!」
「霊などはいない」
「私もそう思っていましたが、今は違います。知ってますか。知らないと思いますが、幽霊はフェラチオをするんですよ! 少し、勃起してしまいましたよ! もし、そのまま射精してしまったら、私、もう人間じゃなくなっていたところです!」
珍保長太郎は話してるうちに激こうして大声になり、つばを飛ばした。
ヤクザ悪左衛門は相手の言ってることがまったくわからなかったが、キチガイはキチガイなりになにか事情があるらしかった。それはほんとのキチガイじゃないと理解できないことなのだろう。相手の頭がおかしいことだけは、よくわかった。
「自分から食べないのなら食べさせてあげます!」
お楽しみ時間の始まりか、このキチガイめ。
とヤクザ悪左衛門は身構えた。
そもそも、うでごと縛られてるのだから自分からは食べようがないのだが。乙武のように手足は使えなくとも口先だけで理詰めに攻めて従わせることができないか、とも思ったが、もともと肉体派でそんなに頭は良くなかった。
キチガイ!
キチガイ!
完全なキチガイ!
と、ヤクザ悪左衛門は叫びたかった。女のように叫びたい。もちろん、叫んでも相手を喜ばせるだけなのでしないが。
「青虫です! 健康に良い有機青虫です!」
珍保長太郎は割り箸で煮えた青虫をはさんでヤクザ悪左衛門の口に入れようとした。かたくなに口を閉じて入れまいとするヤクザ悪左衛門。予想通りの苦しい戦いになっていた。ハードな人生だ。
「青虫が〜入らない〜」
珍保長太郎がへんな節をつけて歌うように言った。
青虫音頭か。
ヤクザ悪左衛門は相手がふざけてるのかと思って顔を見たが、にこりともしていなかった。
真剣そのもの。
キチガイ……。
完全なキチガイ……。
凶暴な悪党を相手にするのは得意だが、キチガイだけはよくわからないと、ヤクザ悪左衛門は思った。今日は人生最悪の日だ。しかも、そのまま最後の一日になりかねない。
「入らないなら穴を開ける〜」
珍保長太郎は金槌と道路工事で使うような太い金属のクイを手にもって迫って来た。
「むがががががっ!」
とヤクザ悪左衛門は暴れたが、逃れるすべはない。歯にクイを当てて、クイの頭に金槌を当てた。
カーン。
ぼきっ!
ぽろぽろ。
ヤクザ悪左衛門の黄色い前歯が簡単にくだけた。
「ぐごごごごっ」
まったく、キチガイ、勘弁してくださいよ。
とヤクザ悪左衛門は泣きそうになりながら思った。
中学生の時にシンナーをやっていたので歯はもろかった。涙が自然に出そうになったが、決死の努力でこらえた。
この男、俺が泣き出したら、ますます喜んで俺に拷問をくわえるつもりだろう。
興奮して自分を止められなくなるタイプだ。
「歯の隙間から〜青虫入れる〜うふふふ〜」
『ウフフッ』はやめてくれと、ヤクザ悪左衛門は絶叫したくなった。
ヤクザ悪左衛門の事情は無視して、珍保長太郎は口の中に青虫を詰め込んだ。
「青虫〜青虫〜。どんどん入る〜」
入れるなあーっと心の中で叫ぶヤクザ悪左衛門。
口の中にラーメンの脂っぽい味と青虫の虫くさい味が広がる。『虫くさい味』というのが、どういうものかは説明がつけがたいが、一種独特のアクっぽい味と香りがする。
再び、ゲロが胃の中から食道を駆け足で上がってくる。ヤクザ悪左衛門は、歯を噛み締めてこらえたが、今はその歯に隙間があった。
ぴちゅちゅちゅちゅーーーーーーーーーーっ。
口の中から細い噴水のようにゲロが吹き出す。
「ゲロ噴水〜!」
と即座にラーメン屋店長が名前を付ける。この男は新しい現象に名前を付けるのが得意らしい。
「名前を付けるなーっ!」
思ったことをそのまま言ってしまうヤクザ悪左衛門。弱って来た証拠である。
だが、まだ人間の砦は守ってやる。
俺という名のダムはけっして決壊させんぞ!
とヤクザ悪左衛門は心の中で意気込んだ。しかし、昼から何も食っていなかったので、口の中のラーメンスープの風味に、すこし食欲を感じたのが実に嫌な感じだった。ダムに小さな穴が開いてちょろちょろ水が流れ出してるイメージが頭の中に浮かんだ。
「もっとおいしくなるようにしてあげますね」
と珍保長太郎。
うわっ、次が始まるのか。
次の責め苦はなんでしょうか。
とヤクザ悪左衛門は思った。
拷問は永遠に……。
そんな言葉が頭をよぎった。
珍保長太郎がなにか、がさがさやってると思ったら、取り出したのが見覚えのある覚せい剤と注射器。
このやろう、うちの事務所から持ってきやがったな。
高いのに。
それは窃盗じゃないか。
とヤクザ悪左衛門は思った。しかし、これだけは盗まれても警察に届けるわけにはいかない。
プスー。
あっさりとヤクザ悪左衛門に注射する珍保長太郎。一瞬間を置いて、冷たい刺激が血管と神経を伝わって身体中に広がる。ヤクザ悪左衛門は覚せい剤をたまに使っていた。しかし、常習して廃人になる人間をたくさん見て来たので、自分はそうならないように鉄の意思でこらえていた。自分はシャブを売って金を儲ける方だ。シャブにのめり込んで廃人になってしまうばかの側には回らない。
覚せい剤の効果でヤクザ悪左衛門は幸せな気分になった。状況はすこしも幸せではなかったが。覚せい剤の効用は、高揚感はもちろんだが、ほかには性欲が高まる、食欲がわいてなにを食べてもおいしく感じるようになる、というのがある。
『食欲がわいてなにを食べてもおいしく感じるようになる』
ヤクザ悪左衛門は実にいやな予感がして来た。運命の火炎車が俺のもっとも望んでいない方向にむかって全力でつき進んでいる。昼飯をもっと食っておけば良かったな、と思った。
プスー。
プスー。
プスー。
うわっ、なにをするんだ、このばか。
高価なシャブを何本も打ちやがって。
もったいないじゃないか。
もったいないというか、死んじゃうじゃないか。
これだから素人って嫌なんだよ。
人間の覚せい剤に対する限界量ってもんがあるだろう。
致死量だ。
ちょっと越えてるんじゃないかな。
や、やばいな。
これは。
身体中の血管が凍り付く。
「うわっは、しくしく。うわっはっはっ、しくしく」
ヤクザ悪左衛門は高揚感と絶望感から、笑いながら泣き出した。
「ラリラリになっている〜。ひとりたのしそう〜」
天使のような顔で笑う珍保長太郎。ヤクザ悪左衛門の目には悪魔にしか見えなかった。
ぐうううううううううううううっ。
ヤクザ悪左衛門のお腹が鳴った。その絶妙なタイミングを珍保長太郎は見逃さなかった。
「しょれ、青虫ラーメンを食べるでしゅ!」
とラーメンを差し出す。
「うわっ、青虫大好き! いただきま〜す!」
もはや歯止めがきかなくなり、手足は動かないので、口だけで青虫ラーメンをすすり出すヤクザ悪左衛門。もう大丈夫だろうと判断して、珍保長太郎はヤクザ悪左衛門のビニールヒモを切ってほどいた。すごい勢いで食い出した。
ずるずるずる!
ぷっちんぷっちん!
ずるずるずる!
ぷっちんぷっちん!
ぷっちん、というのは青虫がつぶれて中身が飛び出す音である。青虫というものは熱をくわえると皮が硬くなり、外はかちかち、中は熱々のふわふわという状態になる。
ずるずるずる!
ぷっちんぷっちん!
ずるずるずる!
ぷっちんぷっちん!
「おかわり!」
空いたどんぶりを差し出すヤクザ悪左衛門。珍保長太郎は二杯目を入れて出す。
「お客さん、よく食べますね」
「うまいうまい! 青虫、うめーっ!」
ずるずるずる!
ぷっちんぷっちん!
ずるずるずる!
ぷっちんぷっちん!
それにしても、いつも作ってるラーメンは、こんなに歓迎されたことはないのにな……と珍保長太郎は皮肉な気分になった。二杯三杯……とヤクザ悪左衛門は摂食障害の女性のように食い続けた。
「うめえ、うめえ、こんなうめえもの食ったことねえ!」
ずるずるずる!
ぷっちんぷっちん!
ずるずるずる!
ぷっちんぷっちん!
やがてスープと青虫とシャブが切れた。超満腹したヤクザ悪左衛門は食い過ぎて動けなくなっていた。シャブの力を借りてフードファイターのように大食いしてしまったのである。
こりゃあ、あとでひどいことになるぞ、と珍保長太郎は思った。珍保長太郎は、動けないヤクザ悪左衛門を、暴力団事務所の前まで引きずって行ってから、匿名で警察に通報した。
〜拷問は永遠に〜
ヤクザ悪左衛門は留置場で目を覚ました。記憶が戻ると自分が何を食べたかを思い出して、噴水のようにいつまでもげろを吐き続けた。留置場から刑務所に移されてからも、げろを吐き続けてミイラのようにやせ細ってしまった。今でも青虫ラーメンの悪夢を見て苦しんでいるらしい。
「青虫……青虫……ううん……ううん……」
ヤクザ悪左衛門の房からは夜な夜なこのように苦痛に満ちたうめき声が聞こえた。おかげで同居する囚人がみんなノイローゼになってしまう。
『しょれ、青虫ラーメンを食べるでしゅ!』
ヤクザ悪左衛門の悪夢の中で、珍保長太郎は永遠にラーメンを作り続けていた。これが、うまかった。



あらすじ
代田橋でまずいラーメン屋を営んでいる珍保長太郎。来店した地元の暴力団員と喧嘩になり、居合わせた客のひとりが死亡、珍保長太郎も重傷を負う。指名手配された暴力団員は、逆恨みして、珍保長太郎の女友達をシャブ漬けにして廃人にしてしまう。怒りに燃えた珍保長太郎の孤独な復讐が始まる!
登場人物
珍保長太郎 :『ラーメン珍長』店主
豚野餌吉 : 客
オッパイデカ子 : 謎の女
ヤクザ悪左衛門 : 暴力団
糞賀臭男 : 暴力団
歯糞全身男 : 暴力団
死神酋長:医者

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