【怪奇小説】ウンコキラー〜地獄で麻原が待っているぞ〜

〜地獄で麻原が待っているぞ〜
ラーメン珍長。
うんざりすることにバカこと新実大介に、珍保長太郎にすっかりなつかれてしまった。
「おかえりなさいませ、店長様」
店に戻ったらバカが三つ指をついて出迎えた。珍保長太郎の顔が凍りついた。一週間くらい前から、バカが客の立場を越えて、勝手に店の手伝いをするようになっていた。
「なつかれたくないやつに限って、なつかれてしまう」
珍保長太郎は、ひとり言を言った。頭の中で考えていることがそのまま口から出てしまう。沈黙思考ができないのである。江戸時代の日本人は、みんなこうだったらしいが。
「いやあ、なつかれたくなくても勝手になついてしまいますよ、店長。ここも掃除しておきますね。汚いなあ。開店してから一度も掃除してないんじゃないの?  ほこりほこり。ごみごみ」
バカは厨房に入る。なにやら、ごそごそとホウキやフキンで掃除を始めた。その姿を見ているとゴキブリにしか見えない。ちゃんと風呂に入っているし、別に不潔な若者ではないのだが、その全存在と動きがゴキブリっぽいのである。それとちょっと皮膚がヌルヌルしている。
「住居不法侵入であるッ!」
珍保長太郎はバカがあまりつけあがらないうちに、追い出そうと思い、明白な事実を断言した。そうすれば、このゴキブリは出ているのではないか。
「まあ、良いではないですか。給料などはいらないから弟子入りさせてください。ラーメンなんかも店長作るの下手じゃないですか」
「なに!?」
事実を言われて珍保長太郎は血相を変えた。
「そもそも、もうあまりラーメン屋やる気がないでしょう、店長? その態度が味に明白に現れていますよ」
バカは非難の目つきで珍保長太郎を見つめた。ラーメン・グルメなので、その点はちょっと店長を許せないのである。
「うっ」
珍保長太郎は真実をつかれて絶句した。
「ラーメンだって、今後は私が作るのを手伝いますよ。こう見えても東京の有名ラーメン店はほとんど食べ歩きましたからね。自分で言うものなんですが、作るのもうまいですよ。少なくとも店長の10倍はうまいです」
自信満々に言うバカ。
「いちいち言うことが腹が立つ。どうしたら出て行くのか。このゴキブリ」
睨みつける珍保長太郎。こういうごりおしでくる人間が苦手なようだ。
バカは厨房の床に転がっている腐った野菜を集めて段ボールに入れた。捨てようとすると珍保長太郎がどなった。
「それはゴミではないッ!」
店長の意外な叱咤に目を白黒とさせるバカ。
「……だって、どれもこれも半分くらい腐ってるじゃないですか。このタマネギなんてウジが湧いてますよ! 店長は老眼だから見えてないのかも知れませんがひどいもんですよ」
「腐っていても、洗ってきれいな部分だけつかえば、まったく問題はない! そもそも、肉などと違って野菜には腐るという概念はないのである! 古くなって溶けたり、かびたりするだけである。ウジが湧くくらい熟成して、はじめて野菜は、おいしくなるのである!」
自信満々に気の狂った自説を展開する珍保長太郎。麻原彰晃のようだ。
「おいしくなるったって、そもそも、店長のラーメン、ひどくまずいじゃないですか。きっとその理論は間違ってると思うなあ。いや、でも、そんなことはどうでも良いんです。俺は店長の人間性にほれたんですから。行動とかは問題ではありません。今から地下鉄丸ノ内線にサリンをまきに行くぞ、と言われたらよろこんでまいてきて、死刑になります」
うっとりした目で言うバカ。腐った目玉が脂でぬるぬるしている。
「麻原あつかいか……」
珍保長太郎は機嫌が悪くなって、だまってしまった。だまってしまったことで、このバカの弟子入りが既成事実になってしまったのであるが、珍保長太郎はそこまで頭が回らなかった。そもそも、頭が良かったら、こんなまずいラーメン屋をやっているわけがない。
ふてくされてスポーツ新聞を読む珍保長太郎のわきで、バカはラーメン珍長をピカピカに磨き上げていた。
しかしながら、弟子ができて助かったことがひとつある。出前がやりやすくなったのである。
「店長、行ってらっしゃいませ」
入り口でぎょうぎょうしく三つ指をついて珍保長太郎を見送るバカ。商店街の近所の人たちがなにごとかと見に来たので、珍保長太郎はハラワタが煮え繰り返った。おそらくバカは自分の献身的な行為に酔っているのであろう。不愉快きわまりない。
「であっ!」
ドスッ! と珍保長太郎はバカの顔面を足蹴にした。
「ギャッ!」
バカは噴水のように鼻血を噴出しながら、ゴロンゴロンと転がって店の中に入った。
ピシャッ! とドアを閉める。
「うう〜うう〜」
ガラスの向こうでバカのうめき声が聞こえた。いい気味である。
珍保長太郎はむっつりした顔で出前箱をぶら下げた業務用自転車にまたがった。おもしろそうに見ていた商店街の近所のおやじをひき殺そうと、猛ダッシュで走り出したが、寸前のところで逃げられてしまった。

あらすじ
代田橋でウンコを口に詰めて殺す『ウンコキラー』による連続殺人が起きていた。犯人だと疑われたラーメン屋店主、珍保長太郎は真犯人を見つけるべく、孤独な戦いを始めた!
登場人物
珍保長太郎 :『ラーメン珍長』店主
バカ :新実大介
刑事青赤:
刑事青、青田剛
刑事赤、赤井達也
ミザリー、神保千穂
キャリー、小杉浩子
死にかけ老人、大山田統一郎

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