【怪奇小説】空手対幽霊〜トンカツ〜

〜トンカツ〜
堀江はトンカツが好きだった。
ああ、我が心のトンカツよ……。
トンカツはうまい。
と堀江はトンカツを食いながら思う。
今日もトンカツ。
明日もトンカツ。
トンカツは一度食うと、一生止められんッ!
しかも、トンカツの中ではロースカツが一番好きだった。
ヒレも悪くはない。
悪くはないが、やはり、ロースカツの下品な脂身ッ!
この香ばしい甘い蜜のような脂身が、じゅうじゅうと口の中でとろけるさまは、性行為よりも快感だ。
……と言っても、堀江はセックスをしたことが、あるわけではなかった。できそうな機会はあったが——入らなかったのだ。一生の不覚。
まず、腹の肉がじゃまで、性器までうまく届かない。これはまだ良い。体位の工夫で、どうにか改善の余地はありそうだ。致命的なのは、ちゃんと勃たなかったことだ。
『デブも、ほどほどにしろッ!』という日本の古いことわざがある。いや、ないな。または『デブも休み休み言えッ!』まあ、どうでもいい。とにかく、我らがデブ君は、太り過ぎでホルモンのバランスが崩れてしまっているらしい。女性化したデブほど忌まわしいものはない。つぶれた毛虫のごとくである。
その堀江の身体だが、なかなかの巨乳ッ!
これほど、意味のない巨乳はない。しかも、たまにオナニーのついでに乳首を絞ってみると、じんわりと母乳のようなものが、にじみ出てきて驚くことがある。
「俺、女になっちゃったのかなあ」
と堀江は、一人暮らしのアパートの部屋の中で、口に出して言ってみた。そういえば、手足の毛もほとんど生えてしない。つるつるである。ペニスも小さい。親指くらいである。もっとも、これは腹の肉で隠れていて、直接見ることはできないのだが……。
「そういえば、生まれてから一度も自分のチンチンを直接見たことがない。そんな男は、全人類の中で俺くらいではないか」
堀江は貧乏そうなアパートの、砂壁をうつろな目で見ながら思った。壁が薄くて、隣の引きこもり大学生の食事する食器の音まで、克明に聞こえるという安普請の部屋だ。
せっかく一生に一度のセックスをできるチャンスを、逃したのは惜しかった。堀江は、丸々とした肉付きの良い短い指で——右手である。左手は指がない——おしっこ臭いトランクスの上から、自分自身を揉みながら回想に耽った。少し硬くなった。

あらすじ
空手家の黒岩鉄玉郎は弟子と肝試しに廃屋に入る。そこで見つけたのは、女のミイラ。それは異常な変質者にレイプ殺人されてしまった女子大生だった。ところが黒岩鉄玉郎は、女ミイラを空手で粉砕する。激怒した女ミイラの悪霊は、彼らを呪い殺していく。空手対幽霊という物理的に不可能な戦いが始まった!
登場人物
黒岩鉄玉郎 : 空手家
如月星夜 : ホスト
田中康司 : 糞オタク
堀江 : デブ
結衣 : 風俗嬢
女子大生 : 被害者
青田寧男 : 新宿署刑事

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