【怪奇小説】空手対幽霊〜変態という障害〜

12月 23, 2023

〜変態という障害〜
吹き荒れる強烈な嵐の中に、田中は立っていた。チンチンもニョッキリと勃っていた。
そうだッ!
射精さえしてしまえば、このばりばりに硬くなった黒ネズミは、大人しくなるに違いないッ!
と田中は非常に当たり前なことを思いついた。
そこで、さっさとしごいて出すことにした。田中はクイック・レスポンスの人なのだ。しかも、目の前にはおっぱいを丸出しにした女子高生——乳首は薄いピンク色。オカズには事欠かせない。
……と、おっぱいを見てしまったのが、大間違いだった。
世界の若者たちよッ!
よく、覚えておけッ!
チンチンをしごきながら、おっぱいを見るなかれ。理性が吹き飛ぶ。
ああッ!
吹き飛んだッ!
吹き飛んだともッ!
物凄い野獣のような力が、腰の奥のあたりから沸き上がり、田中はそれに抵抗することは不可能だった……。言わば天安門広場で戦車の前に立ちふさがって止めようとした若者のようなもの。無理無理。
ミンチだッ!
ミンチ!
一瞬にして正義がミンチでタルタルステーキだッ!
未知なる力によって、ボクは操られッ!
女子高生の上に乗ろうとしているッ!
なんだーッ!
この力はッ!
超自然かッ?
ただの性欲である。田中はその行為が、自己破滅的で愚かしいことがよくわかっているのに、ロボットのように操られ、ベッドに這いずり上がり、女子高生の上にまたがった。
しかも、なんということだろうッ!
服まで脱ぎはじめてしまうではないかッ?
「ああんッ! こんなとこで全裸になっちゃってどうすんのッ? いざという時、完全に逃げれないッ!」
ああ、こうしてみんな性犯罪を犯してしまうのね……。田中は初めて犯罪者の心理が、理解できた。女子高生は薬が効いて深く眠っているようで、まったく目を覚まさない。
「しかもトランクスくらい履いていればいいのにッ? なんで全裸なの、ボク?」
田中は自分に呆れて、自分に質問した。答えはなかった。
「おっぱい丸出しの女子高生の上で全裸ッ!」
興奮のあまり大声で叫びそうになるのを、田中は必死で押さえた。別な部屋で家族が寝ているに違いない。
しかし、絶叫したいッ!
スプラッシュ・マウンテンから急降下する時のように、全力で喚き散らしたかったッ!
ああッ!
ぎゃあッ!
ああッ!
なんという異常なシチュエーションだ。盆と仏滅が一緒に来たようだ。
嬉しいのか……?
悲しいのか……?
涙を流してこの状態を苦しみ、かつ、同時に激しく興奮している自分がいる。矛盾だ。盾と鉾。蒲鉾という漢字に似ている。
逮捕されても良いから、鉾で盾を突き破りたいッ!
痛いッ!
痛いッ!
と泣かせたいッ!
苦しめッ!
苦しめッ!
本気で苦しめたいッ!
白目を剥いて泣きわめいている狂乱の女子高生の中で、さらに激しく乱暴にチンチンを入れたり出したりして、生で出したいッ!
「ああッ! 自分が二つに分裂してしまいそうですッ! おおッ! ゴット! プリーズ、助けてヘルプ・ミーッ! アニヨンハセヨーーーーッ!」
敬けんなキリスト者である田中は、内なる本能の暴走行為に大いに苦しんだ。
「ああッ! これがサタンだッ! サタンですねッ! わかりましたッ! とても、実感しましたともッ! 身体を張って理解しましたともッ! 我は見たりッ! サタンは人間の内側にいたのだッ!」
とうとうモーゼのように宗教的開眼にいたる田中。宗教家として次なるステージに進むことができたのかも知れないが、それでも自分が、今、家宅侵入して全裸で、女子高生の上に覆いかぶさっているという事実は変わらない……。
「か……神は無力だッ! 神は……この女子高生様だッ! おっぱい女子高生様だッ! この世で一番、力のある存在なりッ! ここにおわすお方をどなたと心得るッ? おっぱい神なるぞッ!」
今度は邪教に走り出す田中。しかし、田中はがんばった。勝てないとわかっていても、男には戦わなくてはならない時がある。
「……そうだ。レイプだけは止めよう」
田中はきりっと表情を引き締めた。二十九年間の人生で一度も見られなかった男らしい顔つきに変わっていた……。
「だが、この強力な性本能の衝動ッ! これを無視することは不可能だ。ボクはそれほど、強い人間ではない。しかし、ベストは無理ならベターになればいいのだ。理性的なボクらしく、妥協点を探ろうではないか。大岡越前のように両者三両損でいこうではないか」
田中は落語好きなようだ。田中が考えた妥協点というのは、こうだった。
『全裸でこのおっぱいを出してる女子高生に抱きつきます。以上』
……というものだった。
パンティーは脱がさない。
断じて、脱がすものかッ!
しかし、パンティーだけを身に着けた女子高生を、全裸で抱き締めて、腰を激しく振るだけでも、じゅうぶん興奮に足りることであろうと考えられる。すぐに大量に射精するに違いない。
これなら、レイプにはならないし、我が心の内側に潜む悪魔の黒ネズミ様も、満足なさるに違いない。
自分の中に変質者的傾向があるのは仕方がない。人間は変わらないし、死なない限り治らない。ならば過激な犯罪をおこさない程度に、ほどほどの快楽を自分に与えて——人間は神様ではないから、ガス抜きが必要だ——満足すればいいのではないか。
これが『変態』という障害——個性?——を持った者が、社会人として隠れて暮らすために必要な知恵である。
もし女子高生が飲んだ睡眠薬の量が少なければ、途中で目を覚ます危険もあるが、思うがままに強姦して、その後に自己嫌悪に駆られ自殺するよりは、はるかにましであろう。
人間関係や社会性といったコミュニケーション分野には弱いが、知能自体は平均以上あると、自惚れていた田中は、自分のアイデアの素晴らしさに、自画自賛した。
「これで明日からも生きていられる」
田中は安心して、ため息をついた。まさに命の危機だった。敵は自分自身であったとは……。
田中は女子高生のブラのホックを外した。起きる様子はなかった。それで良かった。もし、今、目を覚ましていたら、田中は確実にこの子を殺していただろう……。もちろん、殺したいわけはなかった。田中は心優しい青年だ。
だが、あまりに気弱なため、犯罪が露見するよりは、確実にこの子を殺す方を選ぶ。
田中は自分がそうすることは、わかっていた。おそらく首を絞めて殺す。それから死体をレイプして中に射精。最期は自分のやったことに、耐え切れず自殺するだろう。
殺したくはないから、目を覚まさないで下さい……。
田中は泣きながら、女の子のブラジャーを取った。白い大きめの乳房が、暗い明かりの中で、ゆらゆら揺れた。
もうだめだった。田中はあっという間に、女子高生のパンティーを脱がしてしまった。股を開いて身体の上に乗った……。
「ああッ! なんということだッ! 話が違うッ! バカッ! 止めろッ! ボク、止めろッ! 強姦止めろッ!」
田中は全裸の女子高生を抱き締めて、無我夢中で腰を振っていた。まだ挿入はしていなかったが……。
良い匂いがした。
若い肌は、すべすべしていた。
肌を合わせるだけで、痺れるような快感が、脊髄を通って頭の上から足の先まで走った。
先走り汁が、ほとばしり出た。
射精の予兆が高まりはじめた。
田中は黒いチンチンを握って、女子高生の性器のびらびらの間に擦りつけた。
「入れないぞッ! 入れそうになったら、男らしく舌を噛み切って、死んでやるッ!」
田中はそう強く決心した。それから亀の頭に新たな強い快感を感じた。指で触って確かめた。
なんということだッ!
女子高生のマンコは濡れていた……。
「滑るッ! つるつるとよく滑るッ! スリップして、事故を起こしそうだッ!」
田中は悲鳴を上げた。北国のドライバーにとっては、雪道は日常茶飯事だ。しかし、東京のドライバーは少しの雪でも降ると、たちまちスリップ事故の連発である。
田中は雪道どころか、運転自体に慣れていないドライバーだった。勢い良く女子高生の濡れたびらびらの間に、亀の頭を押しつけ動かしていたのだが、あッ!と思う間もなく、未知なるトンネルに頭が少し埋もれてしまった。
「いかんッ! 入ったッ! 事故だッ! これは故意ではないッ!」
事故で入っただけなら、まだ強姦ではない。田中裁判所の裁判長はそう判決を下した。これは過失で済む、と田中は考えた。安心して亀の頭を抜こうとした。
メリメリメリ!
なんということだッ!
田中は頭ではペニスを抜こうという動作をしたつもりだったのに、身体はなぜか一気に根元までいれてしまったのだッ!
「やばーいッ! 抜かなくちゃッ! 急いで抜かなくちゃッ! 五秒以内ッ!」
田中の頭に『オマンコ五秒ルール』という奇妙な法律が思い浮かんだ。そんな法律があるわけがない。しかし、心情的には五秒以内ならば、確かに許してやろうという気持ちも、わからなくもない。
1、2、3、4……。
それならばと、田中は四秒まで数えてから——失礼ながら、四秒間は膣の感触を楽しませていただいだ——チンチンを亀頭の部分まで引き抜いた。
すると、信じられないことが起きたッ!
突然の衝動に駆られ、田中はチンチンをもう一度、根元まで突き入れてしまったのであるッ!
「なにをやってるんですか、ボクッ! 頭おかしいんですかッ!抜かなくちゃ、だめじゃないですかーッ!」
田中は泣きながら自分に抗議した。慌ててチンチンを膣の入り口まで抜いた。
やれやれ、これで安心だわい、と気を抜いたとたん、再び子宮の入り口まで亀頭を突き立てていたッ!
ズボッ!
「ああーッ!」
しかし、今度は子宮の入り口に激しく突き当たった反動を利用して、もっとすばやく引き抜くことにした。
ズボッ!
そのはずだったが、尿道口まで引き抜いたあたりで動きは反転して、穴の奥めがけて突き進んでいった。
ブラックホールだ。
一度、この穴に落ちたものは、二度と抜けだせないのだ。
そんな葛藤を繰り返していた田中は、その動きが普通の性行為における往復運動となんら変わりがないことに気付いた……。
「普通にセックスしちゃってますよーッ!」
気持ちは良かった。
ズボッ!
ズボッ!
ズボッ!
無限の時間のように感じていたが、実際はこの間、わずか十秒。たちどころに、尿道口から白い液体を吐き出したくなる衝動がやってきた。
「波だッ! ウェイブ! 大きな波が押し寄せてくるッ! 津波だッ! 来たッ! 来たッ! 来たッ! 来たッ! 巨大な津波がッ! 今ッ! ボクを押し流そうとッ! しているッ! あああああああああああああああああああッ!」
睾丸の中から精液の第一陣がもんどり打って飛び出し、それが陰茎の中程までに来た時に、チンチンがちょん切れた。
ゆえに精液は半分の長さになった陰茎の切断面から、世界に向けて飛び出した。射精は一般的には気持ち良いが、これはあまり気持ちが良いとは言い難かった。
何が起きたのか?
見ると、女子高生のマンコに黄色い歯が生えていた。
なんだ……。
これは……?
女子高生のマンコは、おいしそうに、田中の食いちぎられたペニスを咀嚼していた。
次に田中が感じたのは、枯葉のような臭いだった。田中が抱いていた女は、数十年前に死んで干涸びたミイラのようになっていた。なぜか口が耳まで裂けており、そのためにミイラは笑っているようにも見えた。しかし、それは背筋も凍るような冷たい笑いだった。
射精は大きな波が打ち寄せるように、まだ何度も続いていた。血液と精液の入り混じったピンク色の、溶けたイチゴパフェのような液体が股間から吹き出ていた。
田中の心臓はすでにショックで止まっていた。最期の瞬間、田中は、童貞のまま死ななくて良かった……、と思った。


あらすじ
空手家の黒岩鉄玉郎は弟子と肝試しに廃屋に入る。そこで見つけたのは、女のミイラ。それは異常な変質者にレイプ殺人されてしまった女子大生だった。ところが黒岩鉄玉郎は、女ミイラを空手で粉砕する。激怒した女ミイラの悪霊は、彼らを呪い殺していく。空手対幽霊という物理的に不可能な戦いが始まった!
登場人物
黒岩鉄玉郎 : 空手家
如月星夜 : ホスト
田中康司 : 糞オタク
堀江 : デブ
結衣 : 風俗嬢
女子大生 : 被害者
青田寧男 : 新宿署刑事