【怪奇小説】ヒトデ男の恐怖~働く昼行灯~

~働く昼行灯~
「そういえば、さいきん、ウルトラを見ていないな……」
珍保長太郎はひとりごとを言った。夕方の『ラーメン珍長』。あいかわらず客は少ない。アルバイトのバカは奥の方でなにかゴソゴソやっていた。オナニーでもしてるのだろうか。
「ウルトラもいなくなってみれば、さびしい……」
珍保長太郎は一息ついて考えた。
「ということは、まったくないな。消えてせいせいした。それにしても、あの男。悪人ではないと思うのだが、みんなに嫌われている。まったく、気の毒な話だ……」
珍保長太郎は、また一息ついて考えた。
「とは、やはりまったく思わないな。いい気味だ、とか思えない。他人事ながら、なんという呪われた人柄なんだろうか」
ガラッ。
そこにヒルアンドン巡査こと安藤正義が入ってきた。制服なので今日は仕事中だ。
「おい。子供たちの行き先の見当がついたぞ」
意気込む安藤。
「はて、どの子供たちのことでしょうか? ああ、弱虫探偵団の子らですか。あの子たちなら、河童に食われて今頃はウンコになっていますよ。もうとっくに探すのはあきらめていると思っていました。そんな人たちが、かつて、この歴史の中に存在していたこと自体、忘れていました」
心が冷たい珍保長太郎。
「まだいなくなって数日だぞ。あきらめるのは早いだろう。気になって子供たちの家の周りを調べたんだ。そうしたら見つかった。坪内文二って子のアパートの裏だ。地下下水道につながる口があってな。大人でも身をかがめると入れるくらいで、けっこう大きいんだ。で、その入り口の柵が壊されていたんだ。子供たちの足跡も残っていた。間違いない。下水道を探検に入って迷子になったんだな」
と、なかなか有能なところを見せる安藤。奥から出てきたバカが、汗をかいて熱弁している安藤を見てコップの水を出す。一気に飲み干す安藤。
「それで、ちょっと中に入ってみたんだが、一部は戦前からある和田堀給水場にも繋がっているそうで、入り組んでいてわけがわからん。これでは危険なので一回出てきた。これからどうにかして、地下下水道の地図を入手しないとならない。それで、明日だが、探検隊を組んで本格的な調査をしようと思うんだ。探す範囲が広いので人手が多い方がいい。あんた、子供らと仲が良かったろう。一緒に探さないか?」
ちょっと考えてから、珍保長太郎はオーケーした。
「ええ、了解しました。私も代田橋商店街で十年以上、ラーメン屋を開いている男。地域社会の繁栄と安全のために、一肌脱ぐことにしましょうッ!」
不必要に力説をする珍保長太郎を、安藤はいぶかしげに見た。
この親父、地域社会のことなど、ひとかけらも気にかけるタイプには見えないのだが……。ま、こういう問題が起きた時こそ、その人の本性が現れるということかもしれんな。
「ふう。大事件が多くてたいへんだよ。昨日なんか、沖縄タウンの飲み屋で、泥酔していた夫に別れた妻が襲いかかって目玉をえぐり取ったんだよ。信じられるか。どんな修羅場だよ。ああ、まったく世の中、どうなってしまったんだろうな。もう引退したほうがいいのかもしれない」
ヒルアンドン巡査は愚痴をこぼしてから出て行った。その背中を珍保長太郎は親の仇のように睨みつけた。
むろん、子供たちの命はどうでもいい。だが、俺はよく玉川上水の暗渠に死体を捨てている。もしかして、地下下水道は、そこにも繋がっているかもしれない。調査がそこに及びそうになった場合を考えて、俺も現場にいたほうがいいだろう。小細工を弄して捜査をかく乱したり、場合によっては事故が起きたように見せかけて、ヒルアンドンを消す必要な生じるかもしれない……。楽しみだな。イヒヒヒ。
珍保長太郎は蛇のように笑った。

 
あらすじ
呪われた町、代田橋。ここでは今日も怪奇現象が勃発していた。どうやら河童のような生き物が、赤堤沼から現れて、人間を襲って食っているらしい。『ラーメン珍長』のコックで殺人鬼の珍保長太郎は事件の解明に挑む!
登場人物
珍保長太郎:『ラーメン珍長』店主
バカ:新実大介
ヒルアンドン巡査長:安藤正義
弱虫探偵団
モヤシ:坪内文二
キチガイ:今金弓彦
デブ:田淵哲
モヤシの母:坪内伊佐子
モヤシの兄:坪内拓也
中学生:唐木政治
中学生の弟:唐木将紀
ウルトラ:門前正月
旦那:中島圭太
奥さん:中島ルル
娘:中島グミ、5歳
小犬:モップ
元プロレスラー:三船龍太郎
大家:生源寺荘子
セイブ愛地球:環境保護団体