【怪奇小説】ヒトデ男の恐怖~オーエス!オーエス!~

~オーエス!オーエス!~
兄はモヤシの絶望的な戦いを大笑いして見ていた。
「やはり、知能指数の低い俺以外の人間は、追い詰められると不条理な行動に出て、エネルギーを無駄にするな。ハッハッハッ。愚かしい。愚かしすぎる。頭が良く生まれて良かったッ!」
ところが、モヤシがニュルっとウナギ穴に入ったので、兄は血相を変えた。あわてて、モヤシの後を追って、ウナギ穴に飛び込んだ。
モヤシは兄があとを追ってきたことに気がついた。水流がけっこう強いのは、外で降っている雨のせいか。それだと良い。下水道につながっているかもしれない。
オオウナギが先導するように先を泳いでいる。モヤシは周囲の岩をつかみながら、流されないように先に進んでいった。入り口はかなり狭かったが、そこを通り抜けると、あとは人がどうにか通り抜けられるくらいの広さになった。モヤシはこの水脈が地下水じゃないことを祈った。岩の隙間に水が溜まってできた、地下の湖
みたいところにポッカリと出たら絶望的だ。また、水路がだんだんと尻つぼみになって、そこにカポッとはまって、前にも後ろにも行けなくなるのも、恐ろしい。もっとも、その前に、息が続かなくなるのは確実だ。とめていられるのは、せいぜい、あと数十秒か……。
その時、兄に足首を掴まれた。追いつかれたのだ。振り向いても暗くてよく見えなかったが、兄が般若のような形相で睨みつけているのを感じた。足をバタバタさせて、なんとか振り切る。オオウナギの後を追って全力で進むと、モヤシは頭をぶつけた。
目の前に金属の柵があった。向こう側は明るい。オオウナギはスルリと通り抜けて行った。しかし、モヤシが通り抜けられる隙間ではない。兄がふたたびモヤシの足を掴む。水中なので、なにを言っているかはわからないが、後ろで勝利の雄叫びをあげているようだ。
このままでは、どのみち、ふたりとも死んでしまうのだが……。気の狂った兄にとっては勝つことが重要で、命などは、もうどうでもいいのだろう。
モヤシは、今までの短い生涯の中で、これほど、絶望したことはなかった。
「水の量が増えてきたな」
ヒルアンドン巡査こと安藤正義がつぶやく。地下下水道探索チームは数グループに分かれて進んでいた。珍保長太郎と店員のバカは、安藤と同じ組だった。安藤が続ける。
「夕立になったのかもしれない。このまま増水が続くようだと危険だから、今日は引き返そう」
地下なので無線が使えない。水道局から、なんとか古い地図を入手したので、各チームにコピーして渡してある。時間を決めて、受け持ちの範囲を捜索したら、いちいち合流して、次の計画を決めるというやり方をしていた。安藤は各組のいる場所を把握していたので、それぞれに寄って終わりを告げることにした。
引き返す途中で、珍保長太郎はまた大きなヘビのようなものを水中に見た。今度は正体の見当がついた。
「オオウナギだ……」
「オオウナギ? そんなもの、下水にいるかね」
安藤が懐疑の声を出す。
「俺だって信じられないが、今そこに」
珍保長太郎は、警察備品の大きな懐中電灯で水中を照らして探した。オオウナギは見当たらなかった。かわりに白い手のようなものが見えた。
「ん?」
目を丸くする珍保長太郎。普段は開いてるかどうかわからないほどの小さな目なので、これでまともな人間の目くらいの大きさになった。確かに人間の手に見える。脇道の下水管に金網の柵がしてあり、そこから突き出ている。死ぬ間際の痙攣のように、その手が激しく動いた。
認識より先に本能で珍保長太郎は動いた。
「であッ!」
自衛隊時代にやっていた空手で鍛えたキックで、柵を叩き壊す。急いで水中の手をつかみ、引きずり出す。子供だ。しかし、水流のせいだけではない。妙に重すぎる。むしろ、逆に下水管に引きずりこまれそうになる。なにかが、むこうから引っ張っているようだ。「なんだこりゃ」
苦戦している珍保長太郎を見ても、店員のバカはやはりバカと呼ばれるだけあって、ポカンと大きく口を開けて見ているだけだった。こういうときにたよりになるのは、酒を飲んでいないときは優秀な警察官である安藤。すばやく状況を判断して、珍保長太郎に加担した。
「オーエス! オーエス!」
なんとなく綱引きをしている気分になったので、珍保長太郎は掛け声を出した。ふざけているのではない。こうやってタイミングを合わせることで、力が倍増するのである。それにしても、小学校以来、口にしたことがない、綱引きのオーエスという掛け声をとっさに思い出した自分をほめたい、と珍保長太郎は思った。
下水管からモヤシの身体が出てくる。気を失っているようだ。驚いたのは、そのあとだ。モヤシの足首を決死の形相でつかんでいるおっさんが、つながって出てきた。

 
あらすじ
呪われた町、代田橋。ここでは今日も怪奇現象が勃発していた。どうやら河童のような生き物が、赤堤沼から現れて、人間を襲って食っているらしい。『ラーメン珍長』のコックで殺人鬼の珍保長太郎は事件の解明に挑む!
登場人物
珍保長太郎:『ラーメン珍長』店主
バカ:新実大介
ヒルアンドン巡査長:安藤正義
弱虫探偵団
モヤシ:坪内文二
キチガイ:今金弓彦
デブ:田淵哲
モヤシの母:坪内伊佐子
モヤシの兄:坪内拓也
中学生:唐木政治
中学生の弟:唐木将紀
ウルトラ:門前正月
旦那:中島圭太
奥さん:中島ルル
娘:中島グミ、5歳
小犬:モップ
元プロレスラー:三船龍太郎
大家:生源寺荘子
セイブ愛地球:環境保護団体
安倍晋三:総理大臣