【怪奇小説】空手対幽霊〜地獄の炎が見えるか〜

12月 23, 2023

〜地獄の炎が見えるか〜
絶叫した結衣は、アイマスクを取り、男の顔を見た。
どうして知っているの?
結衣の心の中は疑問符でいっぱいになった。なぜか男には、結衣の心の中の声が聞こえるようだった。男は返答した。
「地獄の釜の中で、何度も繰り返しシチューになっている、ミサエに聞いたのさ」
再び結衣は悲鳴を上げた。男は白目の面積が極端に少なく、黒目ばかりの不思議な目をしていた。その石炭のような黒目の奥に、紅蓮の炎が燃えているのが見えた。結衣が囚われたように見ていると、黒目の中の炎はどんどん大きくなり、吸いこまれそうな気がした。
「地獄の炎が見えるか。その上に大鍋がかかっているだろう」
男の吐く息は黴臭かった。鍋の中で煮えているミサエが見えた。牛のような巨乳——腹もたっぷり出ている——だから、ビーフシチューというところか。
ミサエは制服のまま、煮えていた。ただし、ミサエは生前の姿ではなく、日産ディーゼル・ビッグサム 十三トンの下敷きになり、牛ミンチになった姿だった。そのミサエが急に振り向いて、結衣に言った。
「モヘンジョダロってなんだろう?」
挽肉の間から発せられたその声は、くぐもっていて聞きづらかった。しかし、確かにミサエの声だった。
結衣はもう一度絶叫して、店を飛び出した。
店の入り口で、今日二人目の客を捕まえていた、多重債務の客引きにぶつかった。結衣は地面に倒れ、機械仕掛けの人形のように、手足を高速にばたばた動かした。丸出しになっている透け透けのレースのパンツから、陰毛がはみ出していた。お色気ムンムンである。
呆然とする客引きの前で結衣は立ち上がり、歌舞伎町を全力で駆け抜けた。新宿区役所の角で曲がり、靖国通りに飛び出した。
その時、結衣は自分が長距離バス(仙台ライナー号、片道三千円から)の正面に立っていることに気付いた。
客の男はゆうぜんとイメクラを出て、新宿駅の方向に歩いて行った。黒目がちな男の瞳の奥で、暗い炎が燃え盛っていた。その炎の上の釜の中では、十年ぶりに再会した結衣とミサエが仲良くシチューになっていた。しかし、二人は少しも楽しそうには見えなかった。


あらすじ
空手家の黒岩鉄玉郎は弟子と肝試しに廃屋に入る。そこで見つけたのは、女のミイラ。それは異常な変質者にレイプ殺人されてしまった女子大生だった。ところが黒岩鉄玉郎は、女ミイラを空手で粉砕する。激怒した女ミイラの悪霊は、彼らを呪い殺していく。空手対幽霊という物理的に不可能な戦いが始まった!
登場人物
黒岩鉄玉郎 : 空手家
如月星夜 : ホスト
田中康司 : 糞オタク
堀江 : デブ
結衣 : 風俗嬢
女子大生 : 被害者
青田寧男 : 新宿署刑事