【怪奇小説】ヒトデ男の恐怖~帰っていくウルトラマン~

~帰っていくウルトラマン~
ウルトラ忍者こと元俳優、門前正月は機嫌が良かった。ウルトラ忍者として自主的にパトロールしていることが地元で評判となり、フリーペーパーに載ったのである。気分が良かったので、今日は『ラーメン珍長』でウルトラーメンを食べたあと、久しぶりにビールまで飲んでいた。
さいきんは、ウルトラ忍者として健康的な生活を送っていた。酒はいっさい口にしていなかったのだが、一口飲んだら、一瞬で、もとの酔っ払いに戻ってしまった。ベロンベロンに泥酔すると門前は口が軽くなる。シラフではかなり神経質で嫌味な性格なのだが、飲むと陽気になる。陽気になるが人望がないので誰も相手をしてくれない。
飲み屋の亭主などは仕事なので仕方なく門前の相手をしているが、客と店長という関係がなければ、〇、五秒で門前を蹴って道路に放り出していることだろう。門前は嫌われていた。悪人ではないが、誰にも好かれていない。
「店長、見てくださいよ。マスコミですよ。マスコミ。雑誌から取材が来るなんて三十年ぶりですよ。これは、俺も復活してきた……、ということだろうな」
珍保長太郎にフリーペーパーをむりやり見せる門前。ひねくれた性格の珍保長太郎は、ひたすら見まいとして顔をそむける。そのたびに、門前は顔の向いた先にフリーペーパーを持っていく。見るまでやめない。しつこい性格なのである。これも門前の嫌われている理由のひとつだ。
しつこさに根負けした珍保長太郎がようやく重い口を開く。
「そういうのはミニコミというのだ」
どうでもよいことだったが、一応間違いを指摘しておく。
「同じようなものですよ。入れ物ではない。問題は中身ですよ。人々がウルトラ忍者のことを思い出して、再び話題にするようになった……。かんじんなのはそこです。ああ、やっぱり、俺は根っからのマスコミ人種なんですね。第一線をしりぞいて何十年もたっていますけど……」
一息ついて、声を大にして主張する門前。
「選ばれたる者の恍惚と不安ですよッ! わかりますか、店長ッ!」
まったく、誰も聞いてないのにしつこくてうるさい。他人に嫌われるのがよくわかる。
そんなカスみたいなフリーペーパーは見たくない珍保長太郎だったが、門前が永遠に目の前に持ってくるので、内容がうっかり目に入ってしまった。この前、ヒルアンドン巡査が冗談で門前に賞状を送った時のことが書いてある。なにか変だ。
「ウルトラマンと書いてあるぞ」
「そう! そこです! ひどいじゃないですか。あまりじゃないですか。よりによって、ウルトラ忍者をパクったウルトラマンと間違えるなんて。我々にとっては、親の仇みたいなもんですよ。やっぱり、こういう小さな雑誌って人材不足なんですね。無能なライターしかいない。そこのスリーコンカフェで六時間もインタビューに答えたのに、ギャラが出ないっていうじゃないですか。驚きましたよ。俺の全盛期は、インタビューの相場は一回で十三万円くらいでしたけどねえ……」
真相は、記者は三十分くらいで切り上げようとしたのだが、門前がいつまでも話をやめなかったのである。興味がなかったので珍保長太郎は答えなかった。
すっかり泥酔した門前。いい気分で店を出る。久しぶりに酔ってしまったが、地域のパトロールをやめるわけにはいかない。今ではこれが門前のアイデンティティになってしまった。『人々の役に立っている自分』。それが門前の思い浮かべている自分の姿だった。
ところでウルトラーメンを食ってアルコールを飲むと困ることがひとつあった。ものすごく勃起してしまうのである。
「これはどういう仕組みだろうか……」
門前はひとりごちた。ウルトラーメンには正体はわからないが、なにか元気になる成分が入っている。それにアルコールまでくわわると、よけいなとこまで活発になってしまうようだ。
パトロールなので、なるべくひとけのないような暗い道を歩く。オチンチンを勃起させたまま歩いていると、門前は自分が、正義の味方なのか、痴漢なのか、わからなくなってきた。
赤堤沼のほとりに来た。
「あっ」
女が歩いていた。この前、悪役プロレスラーに襲われているのを助けたキャバクラ嬢だ。相変わらずの爆乳だ。しかし、今日はこれから出勤をするらしくまったく酔っていない。門前は股間の大ナマズがますます大きくなるのを感じた。
「あなたはいつぞやの……」
門前は女に話しかけた。
このキャバクラ嬢、この前、助けた時は、あきらかに、ヤってもいいわ、というそぶりを見せたな。
それは今でも有効なのだろうか。
泥酔した門前は、劣情と期待に胸をふくらませた。
「はっ?」
知らない男に話しかけられたので、警戒の眼差しをむけるキャバクラ嬢。まったく覚えてないようだ。汚らしい虫のように門前を見下している。女はモデルのような高身長で、門前より大きかった。高いところから門前をにらみつける。
「……この前、夜道であなたを助けたウルトラ忍者です。元プロレスラーの凶悪な大男を、叩きのめしてやったではないですか。あなた、その時、レイプされる寸前だったんですよ。いや、あの男なら、命さえ奪っていたかもしれませんね」
恩着せがましい門前。
「ウルトラ……なに? 気持ち悪いオヤジだな」
キャバクラ嬢は、相手が誰なのかは思い出したが、少しも感謝してるようには見えなかった。
「おいおいおいおいッ! なんだ、その目つきはッ! 俺は命の恩人だぞッ! 命の恩人にあったのだから、いつぞやはありがとうございました……、とまずは頭を下げて礼を言うのが世間の常識ってもんだろう? アアン? 土下座しろッ! 俺の足元に這いつくばれッ! 土下座して涙を流して感謝しろッ! このホステス風情がッ!」
言っているうちに腹が立ってきた門前。だんだんと声が大きくなり、しまいには罵声をあびせていた。口数が増えて怒りっぽくなる。これはウルトラーメンの負の効用のひとつなのだが、門前は知らなかった。
一方的に罵られたキャバクラ嬢は激怒した。よく見ると門前の股間がテントのように張り出している。
「ハア? だからなにッ? 恩義にきて股でも開けって言うのかッ? ふざけんじゃないよッ! このジジイ! なにチンポ硬くして偉そうなこと言ってんだッ!」
「俺のオチンチンが、でかいとでも言うのかッ! そんなに見たいなら出してやるッ!」
ニョキリ。
論理のつながりがわからないが、門前はチャックを開けて男性器を出した。
長い。そして極太。もう精力のかけらもなさそうな初老の小男なのに、股間の黒ナマズは月に向かって起立をしていた。三十センチはゆうに有る。
「キャー、変態ッ!」
悲鳴をあげる女。門前は続ける。
「俺が言いたいのは、こんなことじゃないんだ。俺が言いたいのは、お嬢さん、なにか困っていることはないですか?ということなんだよ。なにも暴力をふるおうとしてるんじゃない。俺はウルトラ忍者だから、人を助けたくてたまらないんだ。そうだな。感謝のお礼は俺に助けを求めるだけでいい。簡単だろう? それだけで、俺は身体中に幸せが満ち溢れるんだ」
一息つく門前。泥酔してるので、なにを言ってるかよくわからない。
「お前を助けさせてくれッ! どんな小さな、些細なことでもいいッ! 俺はお前を助けたくて、気が狂いそうなんだッ!」
どんどん興奮して手がつけられなくなっていく門前。キャバクラ嬢は絶叫した。
「助けなどいりません!」
走って逃げようとする。そうはさせじと、門前が襲いかかる。これのどこがウルトラ忍者なのか。
「それならッ! 俺がッ! お前がッ! 助けがッ! 必要になるようなことをッ! してやるッ! それッ! 苦しみのあまりッ! 叫ぶがいいッ! 声が出せるうちにッ! 絶叫しろッ! 助けてーッ! 誰か助けてーとッ! 俺が助けてやるッ! 自給自足だッ! これは正義のッ! 自給自足だッ!」
狂った論理を展開しながら、キャバクラ嬢にしがみつく門前。女より頭一個、低いのだが、ウルトラ忍者状態になった門前は無敵だ。たちまち、キャバクラ嬢は身動きができなくなり、下着をおろされる。門前は女にのしかかった。
「そうれッ! ウルトラ・チンポじゃーッ!」
門前は猛獣のように腰を動かす。
「ああ、すごい! 硬くて大きい!」
女は絶叫する。一瞬でオルガスムスに達した。
「ウルトラ・チンポ!」
ハアハア。
「ウルトラ・ファック!」
アア。
アア。
門前は興奮のあまり、赤堤沼の中から、なにかが近づいてきていることに、気がつかなかった。
ザバーッ!
それは、とつぜん、水の中から姿を現した。ドロドロとした沼のゴミと水草に覆われたヒトデのようなフォルムの化け物。身体の中央の大きな口が開いて、キャバクラ嬢の頭に噛み付いた。食いちぎった勢いで水中にどんもり落ちるヒトデ男。
ドッブーン!
女の頭がちょんぎれた瞬間、女性器がキューンと締まった。怪物が出てきたときにイク寸前だった門前は大量に射精してしまった。それどころの騒ぎではないのだが、出だしたものは止まらない。
ドピューッ!
ドロドロッ!
ドピュッ!
ドロドロッ!
ドピュ!
タラタラ……。
門前は女の首なし死体にオチンチンを入れたまま、射精の余韻を楽しむことなく、とほうにくれていた。とりあえず、自分の人生が終わったことは知った。この後、怪物に自分が殺されるかどうかは関係ない。人生が確実に終わったのだ。
少しも興奮するような状況ではなかったが、皮肉なことに門前は勃起したままだった。ウルトラ・チンポなので、まだ何回でもできるのである。
そんなものは、今は少しも必要ではないのに……。
考えてみると、キャバクラ嬢が助けを必要としていないのに、むりやり、助けを押し付けようとしていた自分も、このウルトラ・チンポと同じような無神経な存在である。最低の人間だ。
すっかり酔いが覚めた。
門前は怪物が襲ってくるのを、今か今かと、首なし死体と合体したまま、待っていた。期待していたと言ってもいい。だが、いっこうに沼から出てこない……。仕方なくオチンチンを抜いた。
皮肉なことに、こういうときに限って、怪物は襲ってこない。ぶざまでみじめな初老男。無意味に長すぎる三十センチのチンポ。おそらく、朝まで硬いままだろう……。無意味だ。俺と同じくらいに無意味な存在だ。
門前はチンポをブランブランと揺らしながら、その場を去った。もうチャックを開けてしまう気力がない。また、でかすぎて入るスペースもない。その目は完全に死んでいた。

 
あらすじ
呪われた町、代田橋。ここでは今日も怪奇現象が勃発していた。どうやら河童のような生き物が、赤堤沼から現れて、人間を襲って食っているらしい。『ラーメン珍長』のコックで殺人鬼の珍保長太郎は事件の解明に挑む!
登場人物
珍保長太郎:『ラーメン珍長』店主
バカ:新実大介
ヒルアンドン巡査:安藤正義
弱虫探偵団
モヤシ:坪内文二
キチガイ:今金弓彦
デブ:田淵哲
モヤシの母:坪内伊佐子
モヤシの兄:坪内拓也
中学生:唐木政治
中学生の弟:唐木将紀
ウルトラ:門前正月
旦那:中島圭太
奥さん:中島ルル
娘:中島グミ、5歳
小犬:モップ
元プロレスラー:三船龍太郎
大家:生源寺荘子
セイブ愛地球:環境保護団体